持続可能な社会とは

 一昨日、埼玉県総合技術センターで行われた産学官セミナーで、東北大学名誉教授の新井邦夫先生の話を聞かせていただいた。タイトルは「超臨界流体技術と分散型製造プロセスの構築」。後半分は時間もなくなり端折った説明になってしまったが、前半部分の持続可能な社会の説明について、今日は紹介する。

 閉鎖系の地球では有為転変する物質を元に戻すシステムが存在しない限り、定常状態が保たれず、必ず環境変化が起こる。生態系が定常状態を保持できる主たるメカニズムは、水と二酸化炭素を原料とした植物による光合成であり、地球上の生命はこの光合成生成物を原点とする食物連鎖過程で物資とエネルギーを得て、再び光合成の原料である水と二酸化炭素を環境に排出している。このサイクルでの年間の炭素循環量は950トン(炭素基準)とも言われており、太陽エネルギーを駆動力とした膨大な水と二酸化炭素の循環により、生態系は持続的に維持されている。
 一方、閉鎖系のサブシステムである人間社会は有史以来開放系として活動してきたが、つい100年前頃まではその規模は、自然の物質循環による浄化作用が有効に働く範囲内で、局地的な環境破壊はともかくとして、生態系全体に影響を与えるほどの大きなものではなかった。20世紀の科学技術の発展は、膨大なエネルギーと資源を利用できる物質文明を実現し、人口は急激に増加し、豊かな生活を支える食糧や多種多様な物質の増産が図られてきた。このような人類活動の拡大と化石資源への依存がこのまま続くとすれば、今世紀中には食糧不足や地球温暖化、さらには石油資源の枯渇による文明の破綻が危惧されている。また、現時点においても、生産プロセスで排出される有機溶媒や薬剤、あるいは農薬、殺虫剤、化学肥料等の化学製品の大量使用による環境汚染、民生あるいは産業から排出される大量の廃棄物等々、人類の活動規模が自然界の浄化作用の容量を超えたものとなっている。
(中略)
 このような状況下で、現在、持続可能な社会の構築が緊急の課題となっているが、そのために為すべきことは極めて明快である。すなわち、「太陽エネルギーを駆動力とした完全な物質循環社会の達成」であり、「人類全ての活動に必要なエネルギーを太陽由来の再生可能なエネルギーで賄い、開放形である人間社会を物質循環型社会に変革し、自然界の物質循環システムに適合させる」ことである。

 定常状態を維持するという意味は、我々人間を含む生物、もう少し広げると有機物が平衡状態にあると言うことだろう。定常状態が崩れ、増加傾向に向いても、減少傾向に向いても結果的に、生物は消滅しえる。もっと言ってしまえば、他の星のように無機物のみの世界になることを意味している。地球の立場(地球に意志があるとは思えないが)で考えれば、有機物がある状態が良いのか悪いのかわからないし、どうでも良いことなのかも知れない。
 人間にとっては、有機物の存在は絶対で、それが存在しないと人間も存在できない。閉鎖系の地球では、有機物の有無が人間の存在を左右する。
 石油とは何かを考えると、この有機物の残骸とも言える。つまり、有機物を利用しエネルギーを得ているのである。ただ、現在の使用スピードが、バランスを崩している。石油が出来るまでのスピードと使用するスピードがあっていないのだ。そのため、石油は枯渇する方向に向いている。
 新井先生が言っているように、現状、唯一枯渇を意識しないで使用できるエネルギーは太陽エネルギーだけだと思う。しかし、このエネルギーを効率的に利用する方法はまだ見つかっていない。今、我々に出来ることは、石油の使用量を減らすこと、太陽エネルギーの効率的な使用方法を確立することだろう。
 石油使用量を減らす方法は、いくつか候補が出始めている。新井先生が研究されている超臨界流体もその一つで、高温高圧がコストをかけずに実現できれば、画期的な技術になると思う。すでに、先生が考案されている方法を使用すれば、コストをかけずに高温高圧が実現できるらしい。
 自分は研究者ではないので、これらの課題を解決することは難しい。しかし、何らかの協力は出来るかも知れない。その方法を模索してみたい。