骨が体に備わった理由

 遠藤秀紀著「人体 失敗の進化史 (光文社新書)」(光文社新書)からの抜粋。

 脊椎動物では、初めから骨らしい骨が備わっていたわけではない。骨はどのようにして身体に備わったのだろうか。
 太古の魚にとって、生きていくのに必要なミネラルをどう保持するかは大問題だった。とりわけカルシウムとリン酸をつねに安定して身体に供給できるかどうかは、魚の生死の分岐点ですらあった。もし昔の魚が海中を生きていたとすると、カルシウムは海水中にたくさん存在するが、手に入れたカルシウムを生体内のどこにどのようにして蓄えておくかが問われたのである。
 一方のリン酸は、たとえば季節によって海水中から得られる量が大きく異なっている可能性がある。普通、リン酸は植物プランクトンに蓄積され、消費者たる動物は、それを食べてリン酸を得る。だが、植物プランクトンは一般に年中平均的に生産されている訳ではなく、短期的でも供給源が断たれたら、魚たちは一気にリン酸欠乏の状況に追い込まれ、生命が維持できなくなってしまう。となれば、リン酸が豊富に得られる時期に大量に蓄え、不足する時期にそれを小出しに消費するようなサイクルが成立していれば、魚にとってかなり都合がよいことになる。
 カルシウムとリン酸。両ミネラルの需給関係の難しさを一挙に解消する方法として、私たちの祖先は体のどこかにリン酸カルシウムを貯蔵する場所を備えたのかもしれない。供給量が多いときに、体内にリン酸カルシウムを塊にして蓄積し、外界から得られなくなったときには、備蓄を崩して自前で供給すればいいことになる。
 つまり、リン酸カルシウムの梁は、最初から身体を支えたり、運動の起点となったり、身体を保護するためのものではなかったのだ。魚の最初の「狙い」としては、リン酸とカルシウムを保持するためにたまたま作り上げた、それ以外には何の役にも立たないミネラルの貯蔵場所に過ぎなかったはずだ。ところが、出来上がったリン酸カルシウムのたまり場は、実際硬くて丈夫で、まさに身体の心棒としてこれ以上は無いほど、高性能の装置だったのである。

 私たちの骨は、ご存じのようにリン酸カルシウムでできている。そして、この骨が私たちの体にどういう理由をきっかけにして備わったかを述べている。魚は我々の祖先であり、魚の時代に骨が形成されたと仮定しての話になる。ところで、無脊椎動物は、どうやってミネラルを確保しているのだろうか?