尿量の調節

生命にとって酸素とは何か―生命を支える中心物質の働きを探る (ブルーバックス)
「生命にとって酸素とは何か」小城勝相著(ブルーバックス)からの要約。

 季節によって違うものの、普通私たちが排出する尿は、一日2リットル程度。わずか2リットルの尿を作るのに、なぜ200リットルもの原尿を作り、それをわざわざエネルギーを消費して再吸収したりしているのか。
 その物理的性質だけでも、血液の温度、pH、浸透圧などを一定に保たないと、全身の臓器に障害が起こる。
 浸透圧に関してて言えば、その変化をいつも測定している細胞が、脳の視床下部にある。浸透圧が高くなると、脳下垂体から出される抗利尿ホルモンを増やして尿量を下げるとともに、のどが渇いたという感覚を起こす。浸透圧が低くなれば、抗利尿ホルモンを減らす。
 その他、体温、pH、大動脈を流れる血液中の酸素濃度など、それぞれを専門に測定している細胞がいる。
 これまで見てきたように、腎臓における水の調節一つとっても、血液の性質を一定に保つために厳密に調節されている。この「恒常性」が、生物には必須。例えば、ビールを一気に2リットルも飲むということがある。水分はほとんど胃腸から吸収されるので、このようなケースでは、急激に血液の浸透圧が下がる危険性がある。また、過激な運動をして大量に汗を出すこともある。こんなとき、一日でようやく2リットルの尿を作っていたのでは、間に合わない。
 200リットルの水を再吸収するようにしておけば、急な変化に対しても、再吸収率を少し変化させればそれで調節できる。従って、ビールを大量に飲めばトイレに行きたくなるのは当然だし、運動をしなくとも汗をかく夏になれば尿の量は減るということになる。
 もう一つ、解毒の問題がある。私たちは、体にとって有害な物質も食物とともに摂取している。これらは、主に腎臓で化学反応を受けて、かなりの部分が腎臓から排出される。その化学反応とは、酸素を使ってヒドロキシル基(-OH)を導入し、水に溶ける物質に変えるというもの。
 体内に入る毒物のほとんどは、疎水性物質で、これらの疎水性物質は、脂質が半分を占める細胞膜を通り抜けるので、細胞内に進入できるという性質を持っている。このような毒物を肝臓に運んで水に溶ける物質に変えれば、200リットルの原尿に捨てることができる。そして、このような物質は、いったん捨てると再吸収されない。再吸収は、体に必要な物質だけを見分けるタンパク質によって行われるため、不用なものはそのまま素通りしてしまうからだ。

 なぜ、200リットルもの原尿を作り、99%も再吸収しているのか?
 その答えは、

  • 体の恒常性を維持するため
  • 解毒作業を適正におこなうため

 人間の体は、血液の温度、pH、浸透圧などを一定に保たないと全身の臓器を維持できない。このため、血液の急激な変化を調節するため、大量の水を必要とする。200リットルの水があれば、体に吸収されたり、排出される水分を容易にコントロールできる。
 また、大量の原尿を作るっておけば、毒物を適正に排出することができる。