自由市場思想と規制緩和

 マークブキャナン著「複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線」からの引用。

 1980年から90年にかけてアメリカを支配していたのは、自由市場思想と政府による規制の撤廃だった。こうした政策を擁護したのは、多くの場合、そうすれば富が貧者に「浸透する」だろうという考え方である。大きな危険が伴い、また環境を損なう恐れがあったにもかかわらず、投資を活発にするためであれば、ありとあらゆることが実施された。当時がジャンクボンド(元利金の返済の可能性が低い債権のこと)や貯蓄、融資破綻の時代だったのはけっして偶然ではない。こうした政策によって、富は浸透したのだろうか?ネットワークの構図に基づくなら、浸透したとはまず考えられない。実際、反対のことが予想される。投資活動が劇的なまでに拡大する一方で、それに見合う形で人々のあいだの資金の流れを増加させる対策をとらなければ、富の分配の不平等は加速されるはずである。そして、現実に起こったこともそのとおりだった。今日のアメリカの富の分布は、30年前に比べて著しく不平等なものになっている。アメリカでの富の集中度はヨーロッパ諸国よりも顕著で、ラテン・アメリカ諸国の水準に近づきつつある。

 ここに書かれているのは、今の日本の状況とほぼ同じだ。小泉政権が自由市場思想と規制緩和を行った結果、景気だけが回復し、国民の二極化が進んでしまった状況とまったく同じだ。アメリカでは、20年も前に実施し、貧富の格差を助長した実例があったのだ。
 自由市場を活発化すると富の二極化が進むというのは、ネットワーク科学ですでに証明されている。そして、ネットワーク科学では、この状態が続き、さらに市場が活発化するとディッピングポイントをこえて、極端な富の集中が起こり、自由市場は崩壊すると予測されている。
 安倍新内閣は、小泉政権を継承し、改革を継続すると言っているが、最新の科学や行動経済学の手法を取り入れ、今こそ改革の見直しをきちんとしないととんでもないことになってしまう可能性がある。現在のアメリカは、日本にとって理想の国ではけっしてない。