不定形

 E.オマール著「不思議な数eの物語」より引用。

 無限大の記号\inftyを普通の数として使うことはできない。例えば、式(2n+1)(3n+4)n=\inftyとすると(2\infty+1)(3\infty+4)となる。\inftyの積はやあはり\inftyで、\inftyにある数を足してもやはり\infty、したがって\infty/\inftyとなる。\inftyが普通の数なら普通の算術法則に従って、この式は単純に1に等しくなるであろう。しかし1ではない;すでに述べたように2/3である(個々を参照)。\infty-\inftyを計算しようとするとき同じようなことが起きる。どんな数もそれ自身から引けば0になるから\infty-\infty=0といいたくなる。これが誤りであることは、式1/{x^2}-(cosx/x)^2から分かる。x\rightar0のとき、二つの項のおのおのは\inftyに近づくが、三角法の助けを少し借りると、式全体は極限1に近づくことが分かる。
 \infty/\infty\infty-\inftyのような式は「不定形」とも呼ばれている。これらの式に割り当てられる値はない;極限操作を等してのみ計算できる。おおざっぱにいって、不定形にはすべて二つの量のせめぎ合いがある。一方は式を数値的に大きくし、他方は式を数値的に小さくする。最終的な結果をそこに含まれる正確な極限操作によって決まる。数学でよく出会う不定形は0/0,\infty/\infty,0\cdot\infty,\infty-\infty,0^0,\infty^0,1^{\infty}などである。(1+1/n)^nはこの最後の形に属す。

 e=(1+1/n)^nは、n\rightar0のとき、{1/n}\rightar0だから{1}^\inftyの形になるので、不定形となる。従って、eの値は極限操作によってのみ求めることが可能となる。\infty*\infty=\inftyだし、\infty+\infty=\inftyなので\inftyと割り算や引き算も計算できると錯覚してしまう。しかし、よくよく考えると無限大は実数ではないので四則演算はできないのである。積と和に関しては同じ極限値だから新たな極限値として置き換えることができるのだろう。