保存料「ソルビン酸」の使い方

 松永和紀さん著「メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学 (光文社新書)」からの引用。

 食品添加物に詳しい藤田哲さんが、月刊誌「食品と科学」(食品と科学社)2006年11月号で、興味深い指摘をしています。欧米で安全性が高い添加物とみなされ、消費量が年率3パーセント弱の伸びを示している保存料「ソルビン酸」の使用割合が日本では非常に低いというのです。
 藤田さんは、コンビニエンスストアセブン-イレブンが2001年に保存料不使用の方針を打ち出し、03年にはローソンも追従したことを問題視しています。多くのコンビニは保存料を使わない代わりに、調味料であるアミノ酸の一種グリシンや酸味料の酢酸ナトリウムなどの抗菌性を利用するようになったというのです。これらも食品添加物です。
 藤田さんはこう書きます。
「これらの代替物の効果は、ソルビン酸には太刀打ちできませんので、保存期間が短くなり、食中毒を避けるために食品の廃棄率が高まります。多量に使えば味も悪くなるので、何とも無駄な選択に思われます。どちらが本当に消費者のためなのか、ここでは科学的思考が欠落しています」
 実は、ソルビン酸は天然の化学物質。ナナカマドの未熟な果実から発見された脂肪酸の一種で、同じものの合成品が食品添加物として使われています。しかし、保存料と名前がついているだけで日本人は忌み嫌い、同じく合成品のグリシンや酢酸ナトリウムは保存料という名前がつかないだけで歓迎する。これが、実態なのです。

 ある宣伝文句を維持するために、非常に優れた効果があるにもかかわらず使用しなくなってしまう一例だろう。実は、消費者は、安心を感じられる宣伝文句に企業イメージを被らせるだけで、中になにが使われているかなどあまり興味がないのが実情だと思う。
 また、藤田さんが指摘している「廃棄率が高まる」というのは、昔なら企業の問題として片付けられていたかも知れないが、環境問題がクローズアップされ始めている昨今では、こちらの方が企業イメージを害しかねない問題だと思う。
 ここには、書かれていないが、添加物の量もソルビン酸を使用することで減らせるのではないだろうか。合成着色料とか保存料とかは、現在ではきちんと効果や毒性評価が行われているし、調べようと思ったら、インターネット上にその評価結果が公表されているから知ることが出来る。従って、企業もこういう公共データを活用し、より無駄をはぶいた効率の良い経営に方向を変えていかないと企業自体継続できなくなるだろう。
 消費者を直接相手にする企業は、何かと消費者に安心をすり込ませることに躍起になる傾向がある。マイナスイオンしかりである。だが、安心のイメージだけで商売が成り立つ時代はそう長くは続かないと思うのだが・・・。
 時たま、思うのだが、我々消費者の食に対する意識の低さは、昭和の時代からまったく変わっていないのではないかと感じてしまうことがよくある。しかし、科学は確実に進歩していて、名称が同じものでも中身はまったく別物になっている可能性がある。我々はそういう認識を常に持っているべきだと思う。