リンゴのポリフェノール

 松永和紀さん著「メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学 (光文社新書)」からの引用。

 2006年11月3日に放送された「おもいっきりテレビ」では、みのもんたさんがスタジオに並ぶ年輩の女性たちににこやかに話しかけていました。「今日から脂っこいものをどんどん食べて結構」。隣にいる女性司会者が言い添える。「リンゴポリフェノールが脂肪吸収を抑えます。肥満を予防してくれます」
 リンゴのポリフェノールが体によいという研究結果は実際多いのですが、ほとんどがリンゴからポリフェノールを抽出して行う研究です。試験管内で培養細胞に投与したり、マウスやラットなど動物の飼料に何グラムもの抽出ポリフェノールを混ぜて食べさせたり、という実験なのです。
 人での実験もわずかながらありますが、ポリフェノールを600ミリグラムや1500ミリグラムと大量投与する研究です。リンゴそのものには、100グラム中にポリフェノールが200ミリグラム程度しか含まれていませんから、りんごを1、2個食べて摂取できる量で効果があるかどうかは分かりません。
 さらに複雑なことに、リンゴポリフェノールを食品として摂取すると、ほかの含有成分と結合してしまい、効果を発揮しないので、サプリメントにして摂取しないと効かない、と主張する研究者がいるのです。そうなると、リンゴを食べることによる脂肪吸収効果はまったく不明です。
 ヨーロッパには「一日一個のリンゴで医者知らず」ということわざもあるように、リンゴはビタミン類や食物繊維なども豊富に含むいい食品です。しかし、リンゴを食べても脂っこい料理をたくさん食べれば、中年太り、高血圧、糖尿病、心臓疾患への道へとまっしぐらです。「脂っこいものをどんどん食べて結構」とまで言うのは、明らかにいきすぎでしょう。もうそろそろ、こういう断定的な言い方はやめるべきではないでしょうか。

 動物実験で大量投与して効果がある、もしくは、悪い症状がでる。だから、いい、もしくは危険。こういった報道は後を絶たない。
 以前に、マウスかラットの背中に炎症がある写真を見せられ、「だから、人口合成した化学石けんは体によくない」と主張する人がいた。その写真が載っている本には、濃度が非常に高い化学石けんを大量に動物に使用した旨が書かれていた。主張した人に「こんなにたくさん使用したら、皮膚に炎症を起こすのは当たり前だよ」と、写真引用して恐怖をあおる書き方がおかしいことを相手に伝えたことがある。こういう主張をする人たちは、健康に関して非常に気を遣っている人が多い。また、天然物を嗜好する傾向も強い。
 「自然にあるものだからよい。」という思いこみが、正確な判断を阻害してしまう。ものを正確に伝えるためには、こういう人たちにいかに冷静に判断してもらうかがポイントになるような気がする。
 上記のみのもんたの例でいえば、「リンゴポリフェノールが肥満予防になる」という言葉だけが口コミ情報として伝わっていく。口コミ情報は、伝達ゲームと同じでそんなにたくさんの内容は伝わっていかない。一番印象に残った部分だけが、一人歩きする。
 従って、こういった後に補足説明を加えても何の意味もないだろう。著者が言っているように断定的な物言いはやめるべきだと思う。