人口の罠

 ジェフリー・サックス著「貧困の終焉―2025年までに世界を変える」から引用。

 貧困の罠に陥る理由の一つは、人口の罠にある。貧しい家族ほど多くの子供をもとうとするからだ。その気持ちもわからないではないが、結果は悲惨なことにもなりうる。貧しい家族に大勢の子供がいると、それぞれの子供に十分な栄養が行きわたらず、健康にも気が配られず、十分な教育も授けられない。一人しか教育を受けられず、たいていは男の子が一人だけ学校に通う。したがって、ある世代で出生率が高いと、その子供たちも貧しくなり、次の世代にも出生率が高くなりがちだ。急速な人口の増加は、農地のサイズや環境資源にも大きな圧力となり、さらに貧困を悪化させる要因となる。
 経済成長を妨げるその他の障害と同じく、人口の罠も回避できる。女子教育の普及によって、女性が労働力に加わると、金を稼げるようになり、それにつれて家で子育てをする「コスト」も高くなる。教育、法律、社会改革を通じて、女性は力をつけるようになり、出生に関しても自分で選択できるようになる(それまでは、夫や家族の他のメンバーが選択していた)。子供たちも病気は適切な治療を受けられるので生存の可能性が高くなり、両親は年をとっても子供に面倒を見てもらえるあてができるので、子供の数が少なくても十分だと思える。家族計画と妊娠・出産に関する健康サービスは極度に貧しいコミュニティにも広めることができる。とはいえ、これらの対策には金がかかる。そして、最も貧しいコミュニティには、その金が欠けているのだ。

 以前は、貧しい国で人口が多いのは、ただ単に夜の時間が長いせいだと単純に考えていた。しかし、いくつかの本を読み進めていくうちに、実はここにも書かれているように、女性の地位向上こそがいちばん不可欠な要素であり、最も実践するべき処方であることに気づかされた。女性が十分な教育を受け、家族だけの世界から世の中に興味を移すことが必要である。家族以外に自分がやりたいことが見つかれば、子供を産むときの判断が異なってくる。当然子供を産むのは女性なのだから、産む産まないの判断は最終的には女性が行うべきである。
 遠藤秀紀著「人体 失敗の進化史 (光文社新書)」に確か、一生の間に女性が子供を産める数は、4〜5人と書いてあった気がする。二十歳から子育てに3年かかるとして、その間女性は月のものがこなくなる。従って、生物としての人間は自然に従えば、4〜5人しか産むことができないと書いてあった。しかし、ほ乳瓶の登場でこのサイクルが崩れた。女性は、ほ乳瓶を使用することで子供を産める環境を3年よりも早くすることができるようになった。その反面、女性の地位向上により、子供を産む選択が女性にできるようになったため、出産・子育て以外にも目を向けるようになった。つまり、生物としてのヒトは、他の生物とは別の道を歩き始めているというのである。
 しかし、貧困を無くして行くには、生物としての伝統よりも、女性の地位向上のほうが何よりも処方箋となりうると思う。