セファイド

 サイモン・シン著「ビッグバン宇宙論 (上)」からの引用。星の中には、一定の周期で明るさが変わるものがある。北極星は、地球からもっとも近いセファイドなのだが、ごくわずかしか明るさが変化しない。このように、セファイドによって明るさの周期は異なっている。

 今日では、セファイドの内部で何が起こっているのか、また、非対称的な変化を引き起こしているものは何なのか、そして、セファイドは他の星とどこが違うのかがわかっている。たいていの星は安定した平衡状態にある。ここで「安定した平衡状態にある」というのは、おおよそ次のようなことだ。星は大きな質量をもつため、重力の作用で潰れようとするが、星が潰れれば内部の物質が圧縮されて温度が上がり、外向きの圧力が生じる。これら二つの作用が釣り合って、星は安定した状態にあるのだ。この状況は、ちょっと風船に似たところがある。風船の場合、ゴムは収縮しようとするが、内部の気圧は外向きにゴムを押し返そうとする。風船を一晩冷蔵庫に入れておけば、風船内部の空気が冷えて圧力が減少し、風船は収縮して新しい平衡状態に落ち着くだろう。
 しかしセファイドは安定した平衡状態にはなく、状態が揺れ動く。セファイドの温度が比較的下がっているときには、星は重力に抗しきれずに収縮する。星が収縮すると内部の物質は圧縮されて、中心部でのエネルギー生産を促し、新たに生じたエネルギーのために温度が上がり、星は膨張する。膨張しているあいだはエネルギーが放出されるため、温度が下がって星は収縮に転じる。このプロセスがいつまでも続くのだ。ここで重要ななのは、収縮すると星の外側の層が圧縮されて透明度が落ち、その結果としてセファイドの暗い時期が生じることである。

 このセファイドが、19世紀初期に起こっていた宇宙に関する大論争(すべての星は天の川銀河の中にあるのか、それとも天の川銀河と同様の銀河が無数存在しているのか)を決着の方向に導いていく。セファイドを観測することで、そのセファイドまでの距離がわかる。ある星雲でセファイドが見つかればその星雲までの距離が測れるのである。そうすればその星雲が天の川銀河の外にあるのか、それとも外側にあるのかがわかり、論争に決着がつくことになる。論争に決着をつけたのが、エドウィン・ハッブルで、アンドロメダ星雲の中にセファイドを発見し、その距離を測定したところ、90万光年という遙かかなたにアンドロメダ星雲があることがわかった。こうして、宇宙には無数の銀河が存在し、宇宙自体の広さもそれまで考えられていたよりもかなり大きいものとして考えられるようになった。この論争が、決着したのは1924年のことだった。