WHO刊行「BSEの脅威について理解する」①

 同書の「はじめに」の部分。

 われわれの地球上での生活の変化が、微生物の世界の均衡を撹乱し続けてきた。微生物は急速に増殖し、頻繁に変異し、比較的容易に新しい環境や宿主に適応していく。彼らは、すばやく新しい機会を利用し、変化して、そして広がっていく。人間活動に関連している要因をはじめ、近年起こっている非常に多くの要因が、このような自然界の現象を加速、増幅させている。この新たな微生物の脅威が生ずる背景として、急速な人口増加、地方から都市への移住、海外旅行、国際貿易、保険制度の崩壊、環境操作、天候パターンの変化、医薬品の乱用、農業および畜産業の形態の変化が挙げられる。このような変化が、ヒトからヒトへの病気の感染に格好の条件を生み出し、病原媒介昆虫の新たな繁殖地をつくり出し、抗生物質耐性菌の出現を促してきた。また、何世紀にも渡って病原体と自然界の動物宿主とが均衡を保って共存してきた生態系をも破壊している。その結果、新しい病気が前例のない速さで出現しつつある。20世紀の後半の数十年間にHIV/AIDS、エボラ出血熱など、30種類以上の新しい病気が史上初めて発見された。牛海綿状脳症BSE)、すなわち「狂牛病」、およびこの病気と関連したヒトにおける変異型クロイツフェルトヤコブ病もその中の一つである。

 BSEも変異型クロツフェルトヤコブ病も近年新たに出現した多くの病気の一つでしかない。人類の生活様式が急激に変化したのにともない、微生物が新しい機会を利用し、急激に変化して広がっていくのは当然である。なぜなら、人類などの高等動物に比べ、病原菌である微生物の方が変異が起こる可能性が遙かに速いから。20世紀の生活様式変化がこれらの病気を生み出したことになる。