「世論」と「鬱陶しい」

 三浦しをん著「人生激場」からの引用。

 最後の砦だったNHKのアナウンサーまでが、「世論」を「よろん」と読みはじめたとき、私はテーブルにつっぷしておいおい泣いた。いや、これはちょっとおおげさな物言いだったか。だけど、おいおい泣きたいぐらいの衝撃を受けたのは事実だ。「世論」の読みはあくまで「せろん」であってほしい。「よろん」という言葉には、本来「輿論」というれっきとした漢字が別にあるのだ。(中略)
 絶滅寸前の漢字の読み方は、他にもある。「鬱陶しい」だ。これはどう考えても「うっとうしい」のはずなのに、最近「うっとおしい」と表記したものが激増している。特に漫画のネーム(セリフ)に散見される。なんだこりゃ。「いとおしさがうっとうしいまでに高じた状態」を表す新しい言葉か?

 最初から話しがそれるが、「テーブルに突っ伏して」の表現に馴染みがなかった。辞書を引いてみると「つっぷ・す【突っ伏す】」とあり「つきふす」の音変化で、急に顔などを伏せる。(大辞泉)とある。「つきふして」と同じ意味だった。
 このように、知っているようでわかっていない読み方や、自然と読み方を間違えている場合が結構ある。
 例えば、「嘆息する」は、文庫本を黙読するときにきちんと「たんそくする」とは読んでいない。自分で翻訳してため息をついたぐらいで理解してしまう。「世論」も字を見ただけで意味が通じるので、きちんと読んでいない。
 こうした行為が、実際にしゃべらなければならない場合での失態につながる。「世論」を「よろん」と言ってしまったりするのだ。ただ、最近の辞書では、「世論」を「よろん」と読んでもいいような書き方がされているので、著者が言うように、絶滅寸前の漢字の読み方なのかもしれない。
 「鬱陶しい」に関しては、完全な読み方の間違いだが、「うっとうしい」よりも「うっとおしい」の方が発音しやすいために発生する間違いのような気がする。自然と間違えやすいので、気をつけよう。