琴の音色

 クララの明治日記(上)(中公文庫)からの引用。

 土曜日、お菓子を焼いてから、富田夫人と、芝の福沢(諭吉)氏のお宅にうかがった。人力車の乗り心地もよく、福沢家の皆さんがとても新設で礼儀正しいので、私はすっかりうれしくなった。福沢氏は二回に案内して、江戸湾のすばらしい眺めを見せてくださった。そのあと七歳のお嬢さんが琴をお弾きになった。私には、なんだかピアノの調律をしているように聞こえたが、富田夫人はとてもいい音楽だと言われた。

 この本は、明治八年に、商法講習所の教師として招かれた父親に従って、十四歳で来日したクララ・ホイットニーの日記である。クララがまだ十五歳である明治八年(1875年)十一月十六日の日記の一部だ。
 福沢諭吉の家に招待され、初めて琴の音色を聞いたのであろう。確かに聞きようによってはピアノの調律にそっくりかもしれない。また、他の日に聞いた日本の歌を一本調子と表現しており、アメリカから来日したモノから見れば、やはり日本の文化はかなり異様だったに違いない。
 実はこの本、現在普通の本屋では手に入らない。再版されていないみたいなのだ。台東区立図書館で借りて今読んでいる最中。歴史上貴重な資料があるにもかかわらず、採算が合わないために再版されていない本がたくさんありそうだ。