EUが中東欧諸国を引きつける理由

 脇阪紀行著「大欧州の時代」、第2章大欧州支える論理と構造、2.改革引き出す柔構造から。
 2004年5月新たに10カ国がEUに加盟し、EUは25カ国体制となった。加盟した国は、エストニアラトビア、リトアニアのバルト三国とポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、スロベニアの中東欧計8カ国、そして南欧のマルタと地中海東端にあるキプロスの10カ国。
 冷戦終結から約15年、鉄のカーテンで分断されていた東西の欧州が再び、「一つの欧州」として蘇った。
 なぜ、中東欧諸国をEUが引きつける理由は何なのか。著者は、その理由を3つ挙げている。

 第一の魅力として挙げられることは、EUが市場経済を基礎に世界最高水準の繁栄を享受する一方で、弱者にも優しい高福祉社会をなんとか維持していることだろう。
(中略)
 中東欧にとって、EUの第二の魅力は、EUが民主主義に立脚し、自由の進展や人権の保護を目標理念として揚げ、その実現のための政策的な実践を行っていることだ。
 アジアや北米、中南米に地域共同体づくりの動きが広がっているが、そこでは今のところ自由貿易協定(FTA)など経済交流の拡大にとどまっている。EUは、単なる経済共同体ではなく、民主的価値を共有する政治共同体の構築をめざしている。
 一つのイデオロギーを加盟国や市民に押しつけず、加盟国間の平等や「法の支配」、それに民族や言語の多様性を尊重する。そういったEUのあり方は、閉塞的な旧ソ連体制の下での生活を強いられてきた中東欧の人々にとっては、とりわけ重要なことだろう。
(中略)
 EUが欧州一帯での戦争防止という理念を揚げ、実践していることも、中東欧諸国を引きつける点だろう。
 先に記したように、欧州統合運動は、数世紀にわたって、国家間のパワーゲームと戦争に明け暮れてきた欧州が、戦争という悲劇を二度と繰り返さないという不戦への誓いから出発している。

 EU25カ国の市場は、人口が4億5700万人、GDPが10兆2890億ユーロとなり、アメリカの人口2億9100万人、GDP9兆4330億ユーロを抜いて、世界第一位になっている。また、人間の寿命や教育、生活水準といった観点からみた「人間開発報告」(05年版)のランキングでは、10位以内に4カ国、11位以上20位以内に8カ国が入っている。
 中東欧諸国を最も引きつけるのは、民族や言語の多様性を尊重する点だと思う。この点では、イスラム教圏であるトルコの加盟をEUは今模索している。キリスト教圏のみでなく、イスラム教圏の国がもし加盟し、うまく共同体を維持して行ければ、世界の平和維持の参考となる事例になるに違いない。こうした経済共同体の枠を越えた共同体の活動は、我々にとっても魅力的だし、参考にすべき事柄だと思う。
 現代には、様々な課題があるが、国境を越えた国どうしの問題点は、EUがトライしようとしている問題点に集約されているような気がする。