化学物質と天然物

 化学物質の環境リスクを低減することが望ましいのはもちろんですが、化学物質は危なくて天然ならいいとは絶対に言えません。蜂に刺されて亡くなる人もあればハブに噛まれて死ぬ場合もあります。毒キノコもトリカブトも、天然で有害な作用を発揮するものはたくさんあるのです。むろん、天然のほうが怖いと言っているのではなく、塩でも油でも砂糖でも、すべての物にはハザードがあるということです。
 要は、ハザードの強さだけでなく、それをどれだけ浴びるか、つまり有害性と暴露量の両方を見てリスクを測ることが肝要なので、ケミカルフリーの社会を創れば理想郷だというような考えは大きな間違いだと思います。それと、リスクがあっても使い方によっては役に立つということもあります。
 ただ、人工的に合成された化学物質が天然物と違うのは、もともと自然界には存在しないものだということです。化学物質は生命や生態系を維持するために絶対に無ければ困るというものではありません。化学肥料なども効率よく作物を生産できるからこそ使っているのであって、そうしたベネフィットを考慮しつつ、なおかつ余計慎重に管理していくという姿勢が、化学物質と安全につきあっていく上では、何より大切なことだと思います。

この部分は、全文掲載。必ずしも天然物が安全でないこと、どんな物質にもハザードがあること、リスク評価は有害性と暴露量を考慮しなければいけないこと、ベネフィットを考慮して化学物質の使用方法を検討すべきことが述べられている。