科学的表現の難しさ

あなたと私の触媒学 (ポピュラー・サイエンス)
「あなたと私の触媒学」(田中一範著 裳華房)の中で、太古の化学進化過程に触れた部分がある。

 地球上に最初の生命が誕生してから約35億年、それに先立つ何億年かは化学進化の時代だったと言われています。化学進化というのは、無生物の世界から生命の誕生に至までの一連の化学反応の過程です。すなわち、まずごく簡単な化合物から生態の構成物質である糖やアミノ酸ヌクレオチドなど低分子の有機化合物が作られ、それらが重合してタンパク質とか核酸のような高分子化合物となり、次にその高分子化合物が秩序正しく集合して全体として特異な機能を持ち、ついに原始細胞の誕生に至るという変遷の過程です。

 私たちが、地球上で起こっている現象を推定にせよ、検証にせよ語るときに、科学用語を使わずに行うことは難しいと思う。最初の生命の誕生を推定するときに、いきなり神を存在させると、そこからもう空想の世界に入り込んでしまう。田中氏が書いているように、全ての事象を化学反応として理解することが現在私たちが知っている先人からの知恵を有効に活用して理解してゆく最善の方法だと思う。ところが、一般的に、科学用語を使用し始めたところで多くの人が引いてしまう。逆に、神とか宇宙人とか空想の世界に引き込む内容だと興味を抱く人が多いことも事実だと思う。
 私のような一般人が物事を科学的に理解するということは、非常に時間がかかる。知らない知識の穴埋めするのに時間がかかるからだ。特に、最新の科学情報については情報の正確さを含め、判断することが難しい。インターネットの普及により昔よりは、簡単に専門家の意見を見ることができるようになったが、その意見の正否を判断するのは自分自身だ。雑誌や新聞に記載されている記事やテレビで報道される内容は、客観性を欠いたものが多く、意図的に報道されていることが多い。
 そういった意味で、一般の人が科学的に物事を理解するには、日常の生活以外にやらなければならないことが多くなる。このことが、科学的理解が一般の人に広まらない一つの要因だと思う。