<span style="font-weight:bold;">化学物質がもつ二面性</span>

 改訂2版「eco検定テキスト」(東京商工会議所編著)からの引用。

 わたしたちの身のまわりには、プラスチック、塗料、医薬品、化粧品、農薬、洗剤など多くの製品であふれていますが、これらのほとんどが化学物質を利用してつくられています。日本国内だけでも、流通している化学物質は数万種に及ぶといわれています。また、毎年、数百種の化学物質が新たに製造・使用されています。化学物質はわたしたちの生活にさまざまな利便性をもたらす一方、適切な管理が行われないと環境汚染を引き起こし、人の健康や生態系に有害な影響を及ぼすことがあります。

 化学物質とは、法令による定義では、「元素及び化合物(それぞれ放射性物質を除く)をいう。」です。放射性物質を除いているのは、放射性物質は別の法令で管理しているからです。
 化学物質は、狭い意味で人工的に作られた物質を表している場合があります。広い意味では、自然界にあるすべての物質を表しています。

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<span style="font-weight:bold;">化学物質の生態系への影響</span>

 改訂2版「eco検定テキスト」(東京商工会議所編著)からの引用。

 環境中に排出された化学物質は、わたしたちが気づかないうちに広い範囲にわたって生態系に影響を与えている可能性があります。
 過去においては、使用方法や管理方法が不十分なことに起因する事故や公害問題が発生した苦い経験があります。現在では、生態系への影響が懸念されると指摘されていますが、それらの化学物質も使用する側にとってはたいへん有益な物質でした。たとえば、殺虫剤や農薬です。農業での雑草と病害虫との戦いを解決したのが、殺虫剤や農薬でした。しかし、これを乱用すると、生態系に深刻な影響をもたらします。
 レイチェル・カーソルは1962年に「沈黙の春」を出版して、化学物質の環境汚染について警告を出しました。この本は、今日の環境保護運動の原点となる書といわれています。

 どんなものでも、度をこすと毒になります。要は使い方、管理の仕方の問題です。殺虫剤や農薬も適正に使用されれば、我々に利便性を与えてくれる物質です。

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<span style="font-weight:bold;">化学物質の有害性と環境リスク</span>

 改訂2版「eco検定テキスト」(東京商工会議所編著)からの引用。

 化学物質の影響を考えるとき、重要なキーワードとなるのが「有害性」と「環境リスク」です。「有害性」とは、化学物質が人や生態系などに悪い影響を及ぼす性質(能力)のことをいいます。また、大気や河川、海などに出された化学物質が、人や生態系に悪い影響を及ぼす可能性のことを、化学物質の「環境リスク」と呼んでいます。

 有害性は、英語でhazard(ハザード)といいます。その物質がどのような危害、損害、損失を引き起こすかという意味です。環境リスクは、その物質が大気や河川、海などに出されたときに、人や生態系にどのような悪影響を及ぼす可能性があるかをいいます。

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<span style="font-weight:bold;">化学物質のリスク評価</span>

 改訂2版「eco検定テキスト」(東京商工会議所編著)からの引用。

 化学物質を単純に「有害な化学物質」と「無害な化学物質」に区別することはできません。化学物質のそのものの有害性だけではなく、それだけの量を摂取したかなど、化学物質にさらされる(暴露)量との両方の要素によって決まります。そのため、有害性の小さい化学物質でもたくさん暴露すれば、悪い影響が起こる可能性があり、逆に有害性の大きい化学物質でも暴露される機会がなければ、悪い影響を心配する必要はないのです。
 このように、ある化学物質がどのような性質をもち、どの程度の量になれば有害性が出るのかを明確にし、実際その化学物質にどれだけさらされているのか(暴露量)と比較することで、その程度危険なのかを確かめることを化学物質の「リスク評価」といいます。

 化学物質のリスク評価は、有害性と暴露性を考慮して確率で表されるのが一般的です。人への影響などは、直接人を使ってその危険性を調べるといったことが出来ませんので、動物実験など他の生物で評価を行った結果に安全係数をかけたものが使用されています。

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<span style="font-weight:bold;">化学物質のリスク管理</span>

 改訂2版「eco検定テキスト」(東京商工会議所編著)からの引用。

 化学物質による人や生態系への影響を未然に防止するためには、多くの化学物質を対象に「リスク評価」を行い、化学物質を利用することがどの程度安全なのかを判断し、それがわかったうえで「リスク管理」をしていくことが必要です。
(1)法律にもとづく取り組み
 日本で製造、輸入および使用される化学物質は、化学物質の有害性の程度に応じてさまざまな法律で管理されています。
a.「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(化審法
 PCBによる環境汚染問題を契機として、1973(昭和48)年に化審法が制定されました。この法律は昭和48年以降に新たに製造・輸入される化学物質(新規化学物質)について事前審査を行い、化学物質の性状に応じて厳しい規制を行うものです。
 最近では、すべての化学物質による人および環境への影響を最小化することが必要であるとの国際的な関心が高まり、EUではすべての化学物質を対象としたREACH規則が2007(平成19)年に施行されるなど、化学物質管理をめぐる状況は大きく変化しつつあります。こうした背景のもとに2009(平成21)年に化審法の改正が行われ、新規化学物質にかぎらずすべての化学物質の管理制度が導入されました。2011(平成23)年4月から全面的に施行される予定となっています。

 法律でよくある話なのですが、その法律が施行される以前の対象物は、対象外とするというものがあります。例えば、建築基準法が見直されたとき、その見直し以前に建造された建物は対象外になる場合があります。
 どうように、化審法でも昭和48年に以前の化学物質は対象から外していました。これは、すべての物質を把握するのは困難という考え方があったからです。今でも、個人的にはそう思っていますが、EUなどでは、すべての化学物質を管理すべきとの考え方が定着しつつあります。
 日本もこれに見習い、2011年4月からすべての化学物質が管理の対象となります。

b.「特定化学物質の環境への排出量の把握及び管理の改善の促進に関する法律」(化学物質排出把握管理促進法、化管法
 この法律は、企業などによる化学物質の自主的な管理の改善を進め、環境の保全上の支障を未然に防ぐことを目的としており、PRTR制度(化学物質排出移動量届出制度)MSDS(化学物質等安全データシート)制度の2つを柱とした法律です。
 PRTR制度は、有害化学物質が、どのような発生源からどのくらい環境中に排出されたか、あるいは廃棄物に含まれて事業所の外に運び出されたかというデータを事業者が自ら把握し、国へ届け出するとともに、そのデータを国が集計し、公表するしくみです。
 MSDS制度は、化学物質を取り引きするさいに、成分、危険性、取り扱い上の注意などを示した資料の提供を義務づけた制度です。
c.ダイオキシン類問題への取り組み
 ダイオキシン類は工業的に製造する物質ではなく非意図的に生成する物質で、主な発生源はゴミ焼却炉でした。その他に、金属の精錬、タバコの煙、自動車排ガスなどの発生源があります。自然環境中で分解されにくく、強い毒性をもち、がんや奇形、生殖異常などを引き起こすなど生態系への悪影響が指摘されています。
 ダイオキシン類問題への対策は「ダイオキシン類対策特別措置法」により進められています。これらにより、消却炉等からのダイオキシン類の排出総量は、2008(平成20)年度では1997(平成9)年比97%削減が達成され、順調に削減が進んでいます。

 PRTR制度は、有害化学物質がどのような発生源からどのくらい環境中に排出されているか、あるいは廃棄物に含まれて事業所外へ運び出されたかを把握し、データの収集結果を公表するシステムです。暴露量がそのくらいあるかの目安となります。また、自主的な取組で企業などがいかに環境中への排出を減らしているかの目安ともなります。
 MSDS制度は、化学物質を取り扱い際の知っておく必要がある成分、危険性、取り扱い上の注意点などを記載し、製品とともに提供するしくみです。

d.農薬のリスク対策
 農薬は、毒性の低い薬剤の開発が進み、毒性および残留性の高いものは使用されなくなったことなどから、新たな農薬による環境汚染の問題は少なくなってきています。農薬は農薬取締法にもとづき規制され、農林水産大臣の登録を受けなければ製造・販売ができない仕組みになっています。
e.PCB(ポリ塩化ビフェニル)対策
 PCBは熱安定性、電気絶縁性に優れ、トランス、コンデンサーなどに使用されていました。しかし、1968(昭和48)年に製造・輸入・使用が原則として禁止されました。廃棄物となったPCBを含む電気製品などは、PCB廃棄物特別措置法にもとづきPCB廃棄物の処理施設を全国5カ所で整備し、2004(平成16)年からPCB廃棄物処理を開始しました。また、非意図的に低濃度のPCBが混入した電気機器に対する対応も、具体化が進んでいます。

 農薬は、農薬取締法にもとづいて規制され、農林水産大臣の登録を受けなければ製造・販売出来ないことは覚えておきましょう。
 かねみ油症事件の原因は、2002年に「PCBよりもダイオキシン類の一種であるPCDF(ポリ塩化ジベンゾフラン)の可能性が強い」と厚生労働大臣が認めています。

(2)企業の自主的取り組み
 化学物質による人の健康や生態系への有害な影響を未然に防止するため、化学物質を個別に法律で規制するというアプローチにとどまらず、リスク管理の考え方を取り入れた自主的な管理による取り組みが企業で行われています。
 化学工業界では、1995(平成7)年に(社)日本化学工業協会が日本レスポンシブル・ケア協議会を設立し、レスポンシブル・ケア活動が展開されています。レスポンシブル・ケア活動とは、化学物質を扱うそれぞれの企業が化学製品の開発から製造、運搬、使用、廃棄に至るすべての段階で、環境保全と安全を確保することを公約し、安全・健康・環境面の対策を行う自主的な活動です。

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<span style="font-weight:bold;">化学物質管理の国際動向</span>

 改訂2版「eco検定テキスト」(東京商工会議所編著)からの引用。

(1)POPs条約
 2001(平成13)年、環境中での残留性が高いPCBなど12物質の削減や絶滅などに向けた「POPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)」が採択されました。日本では、POPs条約で掲げる物質は、化審法、農薬取締法などの国内法により規制されています。
(2)WSSD2020年目標
 21世紀に入り、化学物質管理に関する世界的な取り組みが進展しています。2002(平成14)年に開催された「持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD)」では、化学物質管理に関する中長期目標として「2020年までにすべての化学物質を健康や環境への影響を最小化する方法で生産・利用する」ことが合意されました。各国・地域レベルで化学物質管理施策が進展しており、EUでは新たな化学物質規制であるREACH規則が2007(平成19)年に施行されました。

 POPs条約は、環境中で分解されにくく、生物体内に蓄積しやすいなどの性質を持つ物質が対象になっています。2001年当時は、12物質が対象でしたが、2009年に新たに9物質が追加されています。

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化<span style="font-weight:bold;">学物質に関するリスクコミュニケーション</span>

 改訂2版「eco検定テキスト」(東京商工会議所編著)からの引用。

 化学物質やその環境リスクに対する社会の不安に適切に対応するため、化学物質の危険性や正しい使用・利用に関する情報共有化のためのリスクコミュニケーションなどの取り組みが必要です。リスクコミュニケーションとは、化学物質の環境リスクに関する情報を、地域を構成する関係者(住民、企業、行政など)すべてのものが共有し、コミュニケーション(対話など)を通じて、リスクに関する情報を信頼関係の中で共有し、リスクを低減していく試みをいいます。環境省では、リスクコミュニケーションとして、次のような事項を推進しています。

  1. 環境リスクなどの化学物質についての情報の作成および提供(化学物質ファクトシート等)
  2. 「化学物質と環境円卓会議」を開設し、市民、産業、行政などによる情報の共有および相互理解の促進
  3. 身近な化学物質に関する疑問に対応する人材の育成(化学物質アドバイザー)

 このエコ検定の目的の一つに、環境に関して同じ土台に立てる人材を増やし、環境問題に取り組もうというのがあります。そのためには、情報・知識の共有化を図ることが必要です。リスクコミュニケーションも住民、企業、行政の知識・情報の共有化が目的となっています。

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