赤ちゃんの脳の成長過程

 久々にスティーブン・ピンカー著「言語を生みだす本能」からの引用。ピンカーは、「人間の赤ん坊は、脳の組み立てが完成する前に子宮から追い出される可能性が高い。」といっている。他の霊長類が寿命の何パーセントを胎内で過ごすかということから、人間の場合を比定すると、18ヶ月で生まれていい計算になるらしい。18ヶ月目とは、赤ちゃんが単語をつなぎだす頃だと言うのである。
 そして、赤ちゃんの脳の成長過程は下記のようになっているらしい。

 赤ん坊の脳は、生まれてからもかなり変化する。胎内ですでに、ニューロン(神経細胞)はすべて形成され、脳のそれぞれのあるべき位置に移動している。しかし、頭の大きさ、脳の重さ、および、心的演算に必要なシナプス(神経細胞の接合部)が位置する大脳皮質(廃白質)の厚さは、生後一年間を通じて急速に増大する。神経繊維の集まる白質が完成するのは生後9ヶ月で、伝導速度を速めるミエリン絶縁鞘は幼児期を通じて成長し続ける。シナプスも発達を続け、生後9ヶ月から2年(脳の部位によって異なる)で最大数に達する。この時点で、子どものシナプスの数は、大人の1.5倍になる。脳の代謝活動は生後9〜10ヶ月で成人のレベルに達し、まもなく成人を追い越して、4歳前後でピークに達する。脳の形態は、神経要素を追加するだけでなく、削除することによっても変化する。胎児の段階で大量のニューロンが死に、生後2年間を通じて死滅が続いて、7歳で横ばいになる。シナプスも2歳以降、幼児期を通じて衰退しつづけ、思春期にいたって脳の代謝活動は成人なみに減退する。となれば、言語発達は歯と同様に、成熟過程に組み込まれているのかもしれない。おそらく、喃語、単語発語、文法獲得などの言語発達段階がうまく機能するためには、脳の大きさ、遠距離伝達するための神経繊維、およびシナプスの追加分などについて、最低限の必要量が決まっているものと思われる。脳の言語機能を担う部位についてはとくにそうであろう。

 脳がある発達段階を処理できる程度まで成長するや否や、言語は待ちかねたようにその段階を実現するように見える。なぜ、そんなに急ぐのだろうか。

 この疑問に生物学者のジョージ・ウィリアムズの著書を引用し、言語獲得過程が、一人歩きしだす時期と重なるのは、子どもの事故死を防ぐ役割を持たせるためではないかと示唆している。

 現代でさえ、事故死は子どもの死因のかなりの割合を占めている。子どもを叩くのを自ら戒めている親も、子どもが電線をおもちゃにしたり、ボールを追って通りに駆け出したりすると、つい手を上げることになる。幼児が口頭の命令を理解し、記憶することができ、同時に、現実の体験を言語記号に置き換えて記憶することができるおかげで、かなりの事故死が避けられているに違いない。原始時代の人々にとっても、状況は同じだったと考えられる。