人口ははるか以前に、地球の食物生産量を超えていた

 トーマス・ヘイガー著「大気を変える錬金術――ハーバー、ボッシュと化学の世紀」(みすず書房)からの引用。

 クルックスの演説から百余年、人口は倍増し、また倍増し、これから二、三〇年でまた倍増する見込みだ。人口ははるか以前に、地球の食物生産量を超えてしまっている。たとえ最高の有機農法を実践しても、伝統的な農業で生産できる作物量で、地球に生きられるのは四〇億人でしかない。ところが現在、地球の人口は六〇億を超え、さらに増えつづけている。おまけに私たちは、クルックスの時代より多くのカロリーをとっている。
 クルックスの不気味な予言と現在の肥満の蔓延の間に、ある重大な発見がありそれが地球を救ったのだ。この本はその発見についての物語である。(P.19)

 この事実をすべての人が認識すべきだろう。最高の有機農法を実践しても地球で生きられる人の数は四〇億人に留まる。大気中の窒素を固定窒素として、利用できるかたちにできたことが、四〇億人を超える人口を支えているのだ。
 大気中の窒素を取り込めるようになる前は、生物が排出した窒素が微生物により分解され、結晶化されて析出したもの(硝石)が唯一の固定窒素だった。そして、それをめぐって特に欧米各国が競ってそれを手にしようと世界中を走りまわっていた。その目的は、肥料として食物を得るため以外に、弾薬を作るためでもあった。