<span style="font-weight:bold;">化学物質のリスク管理</span>

 改訂2版「eco検定テキスト」(東京商工会議所編著)からの引用。

 化学物質による人や生態系への影響を未然に防止するためには、多くの化学物質を対象に「リスク評価」を行い、化学物質を利用することがどの程度安全なのかを判断し、それがわかったうえで「リスク管理」をしていくことが必要です。
(1)法律にもとづく取り組み
 日本で製造、輸入および使用される化学物質は、化学物質の有害性の程度に応じてさまざまな法律で管理されています。
a.「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(化審法
 PCBによる環境汚染問題を契機として、1973(昭和48)年に化審法が制定されました。この法律は昭和48年以降に新たに製造・輸入される化学物質(新規化学物質)について事前審査を行い、化学物質の性状に応じて厳しい規制を行うものです。
 最近では、すべての化学物質による人および環境への影響を最小化することが必要であるとの国際的な関心が高まり、EUではすべての化学物質を対象としたREACH規則が2007(平成19)年に施行されるなど、化学物質管理をめぐる状況は大きく変化しつつあります。こうした背景のもとに2009(平成21)年に化審法の改正が行われ、新規化学物質にかぎらずすべての化学物質の管理制度が導入されました。2011(平成23)年4月から全面的に施行される予定となっています。

 法律でよくある話なのですが、その法律が施行される以前の対象物は、対象外とするというものがあります。例えば、建築基準法が見直されたとき、その見直し以前に建造された建物は対象外になる場合があります。
 どうように、化審法でも昭和48年に以前の化学物質は対象から外していました。これは、すべての物質を把握するのは困難という考え方があったからです。今でも、個人的にはそう思っていますが、EUなどでは、すべての化学物質を管理すべきとの考え方が定着しつつあります。
 日本もこれに見習い、2011年4月からすべての化学物質が管理の対象となります。

b.「特定化学物質の環境への排出量の把握及び管理の改善の促進に関する法律」(化学物質排出把握管理促進法、化管法
 この法律は、企業などによる化学物質の自主的な管理の改善を進め、環境の保全上の支障を未然に防ぐことを目的としており、PRTR制度(化学物質排出移動量届出制度)MSDS(化学物質等安全データシート)制度の2つを柱とした法律です。
 PRTR制度は、有害化学物質が、どのような発生源からどのくらい環境中に排出されたか、あるいは廃棄物に含まれて事業所の外に運び出されたかというデータを事業者が自ら把握し、国へ届け出するとともに、そのデータを国が集計し、公表するしくみです。
 MSDS制度は、化学物質を取り引きするさいに、成分、危険性、取り扱い上の注意などを示した資料の提供を義務づけた制度です。
c.ダイオキシン類問題への取り組み
 ダイオキシン類は工業的に製造する物質ではなく非意図的に生成する物質で、主な発生源はゴミ焼却炉でした。その他に、金属の精錬、タバコの煙、自動車排ガスなどの発生源があります。自然環境中で分解されにくく、強い毒性をもち、がんや奇形、生殖異常などを引き起こすなど生態系への悪影響が指摘されています。
 ダイオキシン類問題への対策は「ダイオキシン類対策特別措置法」により進められています。これらにより、消却炉等からのダイオキシン類の排出総量は、2008(平成20)年度では1997(平成9)年比97%削減が達成され、順調に削減が進んでいます。

 PRTR制度は、有害化学物質がどのような発生源からどのくらい環境中に排出されているか、あるいは廃棄物に含まれて事業所外へ運び出されたかを把握し、データの収集結果を公表するシステムです。暴露量がそのくらいあるかの目安となります。また、自主的な取組で企業などがいかに環境中への排出を減らしているかの目安ともなります。
 MSDS制度は、化学物質を取り扱い際の知っておく必要がある成分、危険性、取り扱い上の注意点などを記載し、製品とともに提供するしくみです。

d.農薬のリスク対策
 農薬は、毒性の低い薬剤の開発が進み、毒性および残留性の高いものは使用されなくなったことなどから、新たな農薬による環境汚染の問題は少なくなってきています。農薬は農薬取締法にもとづき規制され、農林水産大臣の登録を受けなければ製造・販売ができない仕組みになっています。
e.PCB(ポリ塩化ビフェニル)対策
 PCBは熱安定性、電気絶縁性に優れ、トランス、コンデンサーなどに使用されていました。しかし、1968(昭和48)年に製造・輸入・使用が原則として禁止されました。廃棄物となったPCBを含む電気製品などは、PCB廃棄物特別措置法にもとづきPCB廃棄物の処理施設を全国5カ所で整備し、2004(平成16)年からPCB廃棄物処理を開始しました。また、非意図的に低濃度のPCBが混入した電気機器に対する対応も、具体化が進んでいます。

 農薬は、農薬取締法にもとづいて規制され、農林水産大臣の登録を受けなければ製造・販売出来ないことは覚えておきましょう。
 かねみ油症事件の原因は、2002年に「PCBよりもダイオキシン類の一種であるPCDF(ポリ塩化ジベンゾフラン)の可能性が強い」と厚生労働大臣が認めています。

(2)企業の自主的取り組み
 化学物質による人の健康や生態系への有害な影響を未然に防止するため、化学物質を個別に法律で規制するというアプローチにとどまらず、リスク管理の考え方を取り入れた自主的な管理による取り組みが企業で行われています。
 化学工業界では、1995(平成7)年に(社)日本化学工業協会が日本レスポンシブル・ケア協議会を設立し、レスポンシブル・ケア活動が展開されています。レスポンシブル・ケア活動とは、化学物質を扱うそれぞれの企業が化学製品の開発から製造、運搬、使用、廃棄に至るすべての段階で、環境保全と安全を確保することを公約し、安全・健康・環境面の対策を行う自主的な活動です。

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