ナノ金属粒子のはなし

 先週、科学技術週間ということで、国や都道府県の研究機関が一般公開を行っていた。物質材料研究機構は、展示会などで何度か見かけたことがあったが、訪問したことはなかった。いい機会なので、つくばにある物質材料研究機構を訪問した。
 公開されている研究室のひとつで金属を水素プラズマアークを利用してナノ粒子に砕く実験を公開しているところがあった。減圧した釜の中で実際に砕かれていく金属をビデオカメラで撮影して見せていた。研究者の人の話では、水素は化学反応しておらず、金属ナノ粒子と混ざった状態にあるという。
 ナノ粒子になるということは、どういうことなのだろう。まず、非常にかさ高になる。かさ高とは、非常にボリュームが増えることを意味する。金属という結晶のかたちで、一つにまとまっていたものが、原子数百個から数千個レベルの大きさで分割され、総表面積が莫大に増えることで、ボリュームが増えるのだ。
 表面積とは、他の物と接する部分の面積、つまり外を向いている部分を表す。正方形のものを二つに切断すると切断面の部分だけ表面積は増える。これを何回も繰り返すと、正方形は小さくなり、表面積は増えていくことになる。
 これと同じ理屈でナノ粒子化された金属は、金属結晶としてひとかたまりになっていたときよりも、非常に多くの表面積を持っていることになる。同時に、他の原子と接する面が非常に多くなっているのだから、非常に反応性が高いことを示している。従って、金属結晶の固まりの時よりも不安定な状態にあるといっていい。
 話を聞いてみると実際にそのとおりで、釜からナノ粒子を取り出そうとして、ナノ粒子が大気中に触れると爆発するという。ガラスなどで密閉してある金属ナノ粒子も時間と共に何かと反応し、かさ高さが半分ぐらいに減ったそうである。
 私たちは、金属は燃えないと思っている。ところが、金属ナノ粒子は、爆発するぐらい反応性が高く、すぐに燃えてしまう。
 燃えるというのは、酸化反応が起きることである。酸化反応とは、狭い意味で金属が酸素と反応して酸化物に変わることを意味している。私たちがよく知っている酸化反応では、ガソリンや石油、そしてガスのようにすぐに燃え上がる物から、鉄が徐々に錆びていくようなものまで、様々なものが知られている。これらはみな、酸化反応(燃えるということ)なのだが、ものが崩れる速度が違っている。ガソリンや石油やガスは、揮発した物、つまり気体(原子が2から数十個)になったものが燃えるので、すぐに反応が起こる。ところが、鉄などが錆びるというのは、固体(原子が数えられないぐらい多く集まっているもの)の表面に出ている部分のみで反応が起こるので、全体が崩れていくのに時間がかかるのである。
 金属ナノ粒子は、その大きさから原子が数百個から数千個つながった物であり、先ほど話したように表面積が非常に多く、気体まではいかないまでも非常に反応性が高い状態なので、燃えやすいのだろう。
 シュレーディンガーは「生命とは何か」という本の中で、ある一定時間、例えば生物が生存している時間、ものが安定に存在するためには、ある一定以上の大きさがなければならないと話している。それは、物が安定に見える大きさ、私たちの知るマクロな世界ほどの大きさが必要だということを意味している。