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フェラータ

覚書

 角田光代著「あしたはアルプスを歩こう (講談社文庫)」からの引用。

 フェラータという言葉は、この旅が決まってからずいぶんと聞いてきた。フェラータがかなり難関だが、でもまあ大丈夫でしょう、とか。高所恐怖症の気があるとフェラータはちょっとこわいかもしれない、とか。昨日も、スガワラさんはフェラータだ、フェラータだとくりかえしていた。
 私はずっと、フェラータというのは地名だと思ってそれを聞いていた。フェラータという高い山があって、少し道が急で、少々難易度が高いのだろうと。
 今日歩く道はファネスの谷という。途中にフェラータがあると説明を受ける。「ファネスの谷のなかにフェラータという道があるわけだね」と私は理解して、出発した。
 《略》
 なおも質問を重ねようとしたが、ふと立ち止まったマリオさんは、
「ここからフェラータです」
と先の道を指さす。
「どんな具合か、雪がなく安全に歩けるかどうか、見てきます」
 言い残し、すたすたとひとり道の先にいってしまった。
「こっからフェラータなんですね」
 私はスガワラさんをふりむいて言い、ぎょっとした。スガワラさんが、私になじみのない代物をナップザックから次々と取り出しているのである。
 ザイル、腰巻きみたいなもの、ヘルメット、キーホルダーをでっかくしたような金具・・・・・。
「いったいそれは・・・・・・」
びびる私に、
「フェラータですから」
 スガワラさんは笑顔で答える。
「フェラータって、あの・・・・・・」
 ようやくここで、私はまたしても何かへんだと気づいたのである。
 岩壁をつたうワイヤーに、体に巻いたザイルをつなげて歩くこと。その総称がフェラータであると、スガワラさんが説明してくれる。

 実は、自分もフェラータなるものを全く知らなかった。インターネットで調べる限り日本にはないらしい。岩場の多い登山道の壁側にワイヤーロープが設置されていて、そこに体をロープなどで固定しながら進むもののようだ。
 写真を見る限りでは、かなり急斜面に細い道が、斜面に平行に刻まれていたりと、かなりスリル満点の設定になっているみたいだ。
 この本を読んでいると、一度はアルプスの山へ行ってみたい気になってくる。イタリアに行ってみたいなあ〜。