イタリアの自動車造形

 奥山清行著「伝統の逆襲」からの引用。

 どこの国でも「ものづくり」において職人が持つ最大の能力は、開発と生産を同時に行うことができる点である。実際の製品をつくりながら工夫も重ねていく。以前の工場は生産ラインの中で開発をし、改良しながらつくっていた。製品を並べて比べると、それぞれに少しずつ違うところはあるけれども、単体で見ればきちんと完成しているのだ。
 ただし、このやり方は大量生産に合っていない。少なくとも戦後の日本の「ものづくり」では悪いこととされてきた。
 一方、それが美徳とされて残っているのがイタリアだ。その点が日本と大きく違う。フェラーリやランボルギーニは、かつてドアなどはその車ごとに単体で合わせてつくっていた。だから、単体ではピッタリ合ってるけれども、事故に遭ってドアを交換するべく取り寄せると全然合わないということも起きた。現在はそこまで極端ではないが、でも、それがイタリアの自動車なのである。
 鋼板やアルミの板を手で打ってできる自然なカーブと曲線。彼らはその素材感をよく覚えていて、それが現代のイタリアの自動車造形に見事に生かされている。

 「開発と生産を同時に行う」というのは、まさしく中小企業の特徴の一つだと思う。大企業になると開発と生産が独立して作業をしているところもあるかもしれないが、ほとんどの中小企業では、生産ラインで製品の改善が行われている。大量生産に合わない体制で大量生産を行っていることになる。
 製品を顧客に納めることを第一に考え、そのお客様の顔が見えたとしよう。その場合、単体で完成度の高い商品が納められればまず問題ない。他の顧客に納める製品が多少違っていたとしても、それぞれのお客様に交流がなければ違いが目立つこともない。素材感がきちんと出ていれば、微妙な形の違いは逆に貴重価値にもなるかもしれない。
 これを突き詰めて考えていくと一品一様の製品を供給することにつながっていく。ただ、工業製品である以上、そこで働いている人々が食べていけるだけの生産量は確保しなければならない。