「価格競争」から「価値競争」へ

 奥山清行著「伝統の逆襲」からの引用。

 かつて「メイド・イン・ジャパン」は、その性能のよさと低価格から、世界中の市場でもてはやされ、一時代を画した。今、中国製が日本製に取って代わり、市場を席巻している。安価な「もの」が洪水のように生産されつづけた結果、日本製の「もの」は、その競争力を休息に削がれてしまった。すなわち「価格競争」において敗北したのである。
 だが価格競争の中で、供給過剰を承知で「もの」をつくりつづけることは、もはやナンセンスだ。なぜなら「もの」の大量生産は、資源をゴミに転化させるという理不尽な行為に他ならず、生産された「もの」が愛着を持って長く使われることはありえないからである。すなわち安価な大量生産品は、けっして消費者に感動を与えないのだ。
 したがって、今後の日本は価格競争にきゅうきゅうとしてはならない。日本が舵を取るべきなのは「価格競争」ではなく、「価値競争」なのである。

 著者の奥山氏は、世界に知られた有名な工業デザイナーだ。先週の日曜日の朝の番組で、東北の中小企業が日本独自のスポーツカーをヨーロッパのモーターショーに出展して脚光をあびたというのをやっていた。このスポーツカーをデザインし、コーディネートしたのが奥山氏である。奥山氏はイタリアの名門ピニンファリーナのデザイン・ディレクターとしてエンツォ・フェラーリやマセラッティ・クアトロポルテなどのカーデザインを担当し、世界的に有名になった。
 このピニンフェリーナは、イタリアの一地方にある中小企業だという。その中小企業が、世界に名だたるスポーツカーをデザインをいくつも手がけ、確固たる地位を築き上げている。そこには消費者を感動させる「ものづくり」があると奥山氏は言っている。
 引用した部分は、プロローグの初めの部分。常日頃からもう大量生産の時代ではないことを感じていたが、ここまではっきり言われると逆にすっきりする。では、どういった方向を目指すべきなのか?そして、それには何が必要なのか?そんなヒントがこの本には隠れているような気がしている。