非周期性の固体
E.シュレーディンガー著「生命とは何か―物理的にみた生細胞 (岩波新書 青版)」からの要約。
小さな分子1個がだんだん大きな結合体を作り上げてゆくのに二つの方法がある。一つは同じ構造を三つの方向に何度も何度も繰り返してゆく方法である。結晶が成長していくときにはこの方法をとる。もう一つの方法は、繰り返しをしないでだんだん大きく拡がった凝集体を作り上げてゆくやり方である。こらは複雑な有機化合物の場合であり、そのような分子では、あらゆる原子および原子団がそれぞれ個性のある役割を演じ、たくさんの他の同種のものとまったく同等の働きをするということはない。このようなものを非周期性の結晶または固体と名づける。
一つの遺伝子(あるいはおそらく一つの染色体繊維全体)は1個の非周期的固体であると考えられる。
非周期性の固体とは、高分子のうち周期性を持つ合成高分子であるポリエチレンやポリプロピレンなどではなく、タンパク質や核酸のような複雑な構造を持っている生体高分子を指しているのだと思う。この本が書かれた1940年代には、すでにナイロンやポリ塩化ビニル繊維などが工業化されているから、これらの合成高分子と区別する意味で非周期性の固体という言葉を用いているのかもしれない。
要約した節の前の前の節で、シュレーディンガーは、物質を「分子=固体=結晶」と「気体=液体=無定形(固体)」とに分類している。分子の使い方が今一よくわからないのだが、物質は、「結晶系」と「無定系(アモルファス)」に分かれることを説明している。しかし、実際には、結晶構造とアモルファスを両方含んだ物質も存在することが今ではわかっている。
また、無定系の性質について、「結晶構造が存在しない場合には、そのものは非常に高い「粘性」(内部摩擦)をもつ液体と見なさなければならない。そのような物質は、はっきり定まった融解温度と融解の潜熱とをもたないことによって、真の固体でないことが見分けられる。このようなものは熱すれば徐々に軟らかくなって、ついには不連続性を現さずに液化する。」と述べているが、前半の部分がまさしく高分子の特徴である。
1940年代以前は無機系化学が主流で、有機系化学はあまり研究されていなかったのだろう。だから、結晶構造とそうでないものに分けて説明する必要があったのだろう。
前回までのE.シュレーディンガー著「生命とは何か―物理的にみた生細胞 (岩波新書 青版)」からの要約
- E.シュレーディンガー著「生命とは何か―物理的にみた生細胞
- 統計物理学からみて、生物と無生物とは構造が根本的に異なっている
- 原子はなぜそんなに小さいのか?
- 生物体の働きには正確な物理法則が要る
- 物理法則は原子に関する統計に基づくものであり、近似的なものにすぎない
- 法則の精度は、多数の原子の参与していることがもとになっている
- 第二の例(ブラウン運動、拡散)
- 測定の精度の限界
- 分子数の平方根の法則
- 古典物理学者の予想は、決して詰まらぬものとは言い捨てられないが、誤っている
- 遺伝の暗号文(染色体)
- 生物体は細胞分裂(有糸分裂)で成長する
- 有糸分裂では、すべての染色体がそれぞれ二つになる
- 減数分裂と受精(接合)
- 遺伝子の大きさの限界
- 遺伝子の永続性
- 突然変異種は育種可能である、すなわちそれは完全に遺伝する
- 遺伝子の座、劣性と優性
- 突然変異は稀な出来事でなければならない
- X線によって引き起こされる突然変異
- 量子論(飛び飛びの状態)量子飛躍
- 分子
- 分子の安定度は温度に依存する
- 数学的な説明の挿入