分子の安定度は温度に依存する

 E.シュレーディンガー著「生命とは何か―物理的にみた生細胞 (岩波新書 青版)」からの要約。

 原子の系が最低のエネルギー状態(絶対温度の零度)の分子を次に高い状態すなわち準位に引き上げるためには、一定量のエネルギーを与えることが必要であり、その最も簡単な方法は、分子を「加熱」することである。分子を温度のより高いところ(熱源)に入れ、他の系(原子や分子)がその分子に衝突するようにする。熱源の温度がどんな温度でも(絶対零度でさえなければ)、大なり小なりその引き上げが起こるある確率が存在し、その確率は熱源の温度とともに増加する。この確率を表す最もよい方法は、その引き上げが起こるまでに待つべき平均時間、すなわち「期待時間」を示すことである。
 期待時間は、引き上げを起こすのに必要なエネルギー差(W)と引き上げを起こす温度における熱運動の強さを特徴づけるエネルギーの大きさ(kT)との比で表される。W対kTの比が大きければ大きいほど、引き上げの起こる確率は小さくなり、期待時間が長くなる。一例を挙げると、WがkTの30倍のとき期待時間は10分の1程度の小ささだが、WがkTの50倍のときは16ヶ月に上り、WがkTの60倍になると3万年になる。