遺伝子の永続性
E.シュレーディンガー著「生命とは何か―物理的にみた生細胞 (岩波新書 青版)」からの要約。
第1の驚異:固体の目に見える外に現れる性質が、何世代にもわたり大きな変化もなく再生産され、数世紀の間持続し、親から子へと伝えられるたびごとに、接合して受精卵をつくる二つの細胞の核の物質構造によって選ばれること。
第2の驚異:われわれのような、その全存在が実にこの種の驚くべき相互作用に基づいているものが、なおかつそれについてかなりの知識を獲得する能力を持っているという事実。
第1の驚異として、固体の目に見える外に現れる性質、つまり容姿や外観といったものが、幾世代も受け継がれていく有様が、卵子と精子の配偶子結合によって行われていることを指摘してる。この場合の容姿や外観が大きな変化もなくとなっているのは、例えば、我々が牛やヒツジの個々を区別できない程度に変化していないことを意味しているのだろう。
そして、第2の驚異として、その機能を理解できる我々のような生物が存在していることを挙げている。ただし、それを識別している固体は、その生命を維持している間でもその構成要素である原子は新しいものに入れ代わっている。
リチャード・ドーキンスが「神は妄想である」の中で、スティーヴ・グランド著「創造−生命とその作り方」からの引用している。
子ども時代のある経験を考えてみてほしい。あなたが鮮明に覚えているもの、あなたがまるで本当にそこにいるかのように、眼で見、感じ、ひょっとしたらにおいさえ嗅ぐことのできるようなものを。結局のところ、あなたはそのとき、そこにいたんじゃなかったのですか?そうでなければ、どうしてあなたはそれを思い出すことができるのか。それではここで爆弾発言をしよう。実は、あなたはそこにいなかったのだ。・・・・・物質はある場所から別の場所へと流れていき、束の間だけ寄り集まってあなたをつくる。したがって、あなたというものが何であれ、それは、あなたを構成しているものの特性ではないのである。もしこれを読んで、首筋がゾッとしなければ、そうなるまでもう一度読んでほしい。大事なことなのだから。
我々を構成している要素は、30日サイクルぐらいで入れ代わっているらしい。そうすると脳に記憶された情報というのは、今自分を構成している原子が築き上げたものではないことになる。確かに首筋がゾッとする話しである。人間が築いてきた知識の所有者はいったい誰なのだろう。
もし、ある作曲者が、名曲を作曲したとき、その時点で彼を構成していた原子は、数週間後には、彼の体から居なくなっている。すると、著作権を主張しているその後の彼は、別の構成原子から成り立っている。もちろん、個々の原子の種類は同じなのだが。果たして、著作権は存続しているといえるのであろうか?
前回までのE.シュレーディンガー著「生命とは何か―物理的にみた生細胞 (岩波新書 青版)」からの要約
- E.シュレーディンガー著「生命とは何か―物理的にみた生細胞
- 統計物理学からみて、生物と無生物とは構造が根本的に異なっている
- 原子はなぜそんなに小さいのか?
- 生物体の働きには正確な物理法則が要る
- 物理法則は原子に関する統計に基づくものであり、近似的なものにすぎない
- 法則の精度は、多数の原子の参与していることがもとになっている
- 第二の例(ブラウン運動、拡散)
- 測定の精度の限界
- 分子数の平方根の法則
- 古典物理学者の予想は、決して詰まらぬものとは言い捨てられないが、誤っている
- 遺伝の暗号文(染色体)
- 生物体は細胞分裂(有糸分裂)で成長する
- 有糸分裂では、すべての染色体がそれぞれ二つになる
- 減数分裂と受精(接合)
- 遺伝子の大きさの限界