統計物理学からみて、生物と無生物とは構造が根本的に異なっている

E.シュレーディンガー著「生命とは何か―物理的にみた生細胞 (岩波新書 青版)」からの要約

 今日では、生物学者たち、それも主に遺伝学者たちの、過去3、40年間の巧妙な研究のおかげで、生物体の内部で時間的・空間的に起こっていることを今日の物理学と化学とがどうしても説明できなかったのは、どういう点に関してであり、それはなぜであったかを、はっきりいうことができるようになった。
 生物体の最も肝要な部分にある原子の配列や、その間の相互作用は、物理学者や科学者が従来実験的・理論的研究の対象としてきたあらゆる原子配列とは根本的に異なったもの。しかし、その構造の差異は、統計的な観点に関してのことだけである。
 生きている細胞の最も本質的な部分(染色体繊維)は、「非周期性結晶」と呼ぶにふさわしいもの。
 物理学で従来取り扱われてきたのは「周期性結晶」に限られていた。
 私の考えでは、非周期性結晶こそ、生命を担っている物質なのです。

 ここで「非周期性結晶」の構造をとる物質とは、おそらくタンパク質を指しているのだろう。「生命」を考える場合、多くの機能がタンパク質などの高分子が担っている場合が多い。また、染色体繊維は、デオキシリボ核酸(Deoxyribo Nucleic Acid)、いわゆるDNAを指しているのだろうが、これは、タンパク質ではない。
 しかし、通常の金属などの無生物を構成している周期性結晶(結晶格子のように周期性をもっている)と生物を構成している物質(ここではDNAを指していると思う)とは構造的に違っていることを早くもここで示している。

前回までのE.シュレーディンガー著「生命とは何か―物理的にみた生細胞 (岩波新書 青版)」からの要約