アイザック・ニュートン(6)

 E.オマール著「不思議な数eの物語」より引用。

 ニュートンの出発点は、互いに関係し合う二つの変数を方程式によって考えることであった。例えばy=x^2(今日、このような関係を関数と呼び、yxの関数であることを示すためにy=f(x)と書く)。そのような関係は、xy平面のグラフで表される。ニュートンは関数のグラフを動点P(x,y)が作り出す曲線と考えた。Pが曲線を辿るとき、x座標とy座標は両方共時間と共に変化する;時間そのものは一様な速さで”流れる”と考えた。ここから流れという語が生まれた。ニュートンはこうして時間に関するxyの変化率、すなわち流率、を求める仕事に取りかかった。”隣り合う”二つの瞬間にxの値とyの値がどれだけ変化するか、すなわちそれぞれの差、を考えて、これを経過時間で割った。最後の重要なステップが経過時間を0に等しいとおくこと(あるいは、もっと正確に言うと、無視できるほど小さいとおくこと)であった。
 関数y=x^2についてこれを考えてみよう。小さな時間εを考える(ニュートンは実際には文字Oを使ったが、この記号はゼロに似ているので我々はεを使うことにする)。この時間の間に、x座標は\dot{x}\varepsilonだけ変化する。ここで\varepsilonxの変化率、すなわち流率、を表すニュートンの記号である。yの変化も同様に\dot{y}\varepsilonである。方程式y=x^2xx+\dot{x}\varepsilonを、yy+\dot{y}\varepsilonを代入すると、y+\dot{y}\varepsilon=(x+\dot{x}\varepsilon)^2=x^2+2x(\dot{x}\varepsilon)+(\dot{x}\varepsilon)^2となる。y=x^2だから、左辺のyと右辺のx^2を打ち消して\dot{y}\varepsilon=2x(\dot{x}\varepsilon)+(\dot{x}\varepsilon)^2が得られる。両辺を\varepsilonで割ると、\dot{y}=2x\dot{x}+\dot{x}^2\varepsilonとなる。最後にεを0に等しいとおくと、\dot{y}=2x\dot{x}が残る。これがそれぞれ時間の関数である二つの流れxyの流率の間の関係、あるいは今風にいえば2変数xyの変化率の間の関係である。(中略)
 ところで、流率法には変数の時間に関する変化率を求めるということ以上のことが含まれている。yの流率をxの流率で割る(すなわち、比\dot{y}/\dot{x}を計算する)と、xに関するyの変化率が求まる。ところで、この量は幾何学的に簡単な意味をもつ:曲線上の各点における曲線の傾斜の程度を表す尺度である。もう少し正確に言うと、比[\dot{y}/\dot{x}]は点P(x,y)における曲線の接線の傾きである。ここで傾きという語でその点における勾配(縦横比)を表す。例えば、放物線y=x^2に対して二つの流率の間の関係は\dot{y}=2x\dot{x}であった。したがって\dot{y}/\dot{x}=2x。このことは、この放物線上の各点P(x,y)における接線はその点のx座標の値の2倍に等しい傾きをもつ、ことを表している。(中略)
 ニュートンは時間と共に変化するxyを考えたにもかかわらず、最後には時間に関係しない純粋に幾何学的な流率の解釈に至った。考えを整理するための補助として時間の概念を必要としただけだった。

 最初の方で、「x座標とy座標は両方共時間と共に変化する」という表現があるが、単に「時間と共に変化する」と置き換えた方が読みやすいかもしれない。
 数学的な意味では、時間という概念が最終的な式から消えるというのが画期的なのかもしれないが、物理の面でいうと座標という空間に時間の流れを取り入れるということの方が画期的だったような気がする。位置の変化を時間軸で考えるそれことが古典力学の原点だと思う。例えば、一定の比率でものが曲線上を移動してるとするとその時間に対する変化率は速度ということになる。またその速度が一定の比率で変化しているとするとそれは加速度ということになる。時間の流れに対しての考察を行ったからこそ、ニュートンは万有引力の法則に至ったのではないだろうか?今日において微分とよばれるこの流率の解釈は、物理的意味合いを持たずに読むことは不可能に思えるのは私だけだろうか。
 それにしても、tex記法は疲れる。