極限値

 E.オマール著「不思議な数eの物語」より引用。複利計算の総額を表す式が

 nが無限大に近づくとき数列a_1,a_2,a_3,\cdots,a_n,\cdots極限値Lに近づくということは、nが大きくなるにつれて数列の項が限りなくLに近づくことを意味している。別の言い方をすれば、数列の十分遠くまでいく(すなわち、十分大きなnを選ぶ)ことによってa_nLの差(の絶対値)をいくらでも小さくできるということである。例えば、数列1,1/2,1/3,1/4,\cdots(一般項a_n=1/n)を取り上げてみよう。nが大きくなるにつれ、数列の項はどんどん0に近づく。これは1/n極限値0の差がnを十分大きく選べば好きなだけ小さくできることを意味している。1/n1/1,000より小さくしたければn1,000より大きく選べばよい。(中略)この状況を、nが限りなく大きくなるとき1/nは0に近づくといい、n\rightar\inftyのとき1/n\rightar0と書く。省略記法
\lim_{x\rightar\infty}\frac{1}{n}=0
も使う。しかしここで一言注意しておく必要がある:式\lim_{x\rightar\infty}\frac{1}{n}=0n\rightar\inftyのとき1/n極限値が0であるといっているだけで、1/n自身がいつか0になるとはいっていない(実際、この場合どんなnに対してもa_nは0にならない)。これが極限概念の本質なのである:数列はいくらでも望むだけ極限値に近づくことが出来るが決して極限に到達しない。

 ただし、同じ数が続く数列、例えば1,1,1,1,\cdots等の場合は、この限りではない。しかし、たいていの場合極限値と極限は一致しないと見ていた方がよいだろう。よく、数値は連続的であり、直線で表せるというが、実際にはいくらでも数値と数値との間に隙間があり、そのあいだを完全に埋めることは不可能なのだ。例えば、1と1.1の間には1.01から1.09の数値をとることができる。また1と1.01の間には1.001から1.009を設定できる。こうして小数点を増やしていけばいくらでも数値と数値の間には隙間があり、数値を埋めることが出来るのである。精度の高い測定器があればいくらでも数値を細かくすることができる。
 従って、大概の場合は、極限値と極限は一致しないことになる。