有機・無農薬野菜は本当に安全?

 松永和紀さん著「メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学 (光文社新書)」からの引用。

 ローソンは子育て中の働く女性をターゲットにした新型店舗を今春めどに開店し、新業態として本格展開する。乳幼児から就学前児向けに有機・無農薬野菜による離乳食やアレルギー源、添加物を使わない弁当などを販売。さらに家庭でも安心して子どもの食事を作れるよう、有機・無農薬野菜も手がける考えだ。(日刊工業新聞2006年1月5日)

 何の疑いもなく、有機・無農薬野菜の方が安全で子どもたちにいいものだ、という前提のもとに記事が成り立っています。
 ローソンのウェブサイトを見ると、企業の取り組みとして「安全・安心・健康」を打ち出し、「健康に着目した商品の提供」として、有機農法によるヘルシー素材を用いた商品が紹介されています。
 ところが、有機農業や有機農産物を規定するJAS(日本農林規格)法の規格をよく見ると、安全、安心、健康という文字はどこにもないのです。
 規格では、有機農産物は、(1)二年以上(果樹や茶など多年生作物では三年以上)、禁止された農薬や化学肥料を使用していない田や畑で栽培する、(2)栽培期間中も、禁止された農薬や化学肥料を使わない、(3)遺伝子組み換え技術を使用しない、などと生産方法が決まっています。
 有機農業イコール無農薬とよく誤解されますが、そうではなく、化学合成農薬の一部や生物農薬など28種類の農薬は使用を認められています。ただし、自然化への化学物質の放出をなるべく減らそうとしている農法であることには違いありません。農薬や化学肥料の製造には石油などの化石燃料も使われるので、それも節約できます。畜産廃棄物(家畜の糞尿)や食品廃棄物からつくられた有機質肥料や堆肥を利用することで、循環型社会の形成に貢献できます。でも、食品としての安全性については分かりません。
 まず、農薬が極力使われず、できた農産物の残留農薬がなかったとしても、その代わりに作物の体内で有害な物質ができている可能性があります。植物は往々にして、ストレスに対して体内で自ら防御物質を作り、実を守る性質を持つからです。この防御物質が人に対して有害である場合もあります。
 カルフォルニア大学バークレー校の教授だったブルース・N・エイムズ博士らが、1990年に発表した学術論文によれば、米国人が食べる植物由来の食品の中には多種類の農薬効果を持つ物質が含まれており、その重量の99.99パーセントを占めるのは天然の物質だった、というのです。
 博士らは、これらの物質を「天然の農薬」と位置付けており、植物が病害虫に襲われたときに爆発的に増えるとも書いています。

 以前、埼玉県で行われた食品廃棄物リサイクルのシンポジウムで、リサイクルを進めている業者の方が、「なかなかバランスのとれた有機肥料は作れない」と漏らしていたことを思い出す。窒素やリンなどの成分比率がどうしても偏ってしまい、植物に必要な構成比率がなかなか得られないというのだ。どの成分が少なかったかはあいまいで憶えていないが、食品廃棄物といっても多種多様だろうから、成分比率を一定にするのも難しいのではないのかと思った。食品廃棄物リサイクルは、それ以外にも回収という大きな課題もある。
 多くの場合、家畜の糞尿から有機肥料が作られているのだろうが、これにしても、家畜を育てるのに必要な飼料を生産するのに石油が多く使われているので、まったく石油を使っていないと言うことにはならないだろう。飼料として輸入されているトウモロコシは、アメリカで大量の石油を使用して作られている。
 植物が外敵から自分を守るために、農薬に近い物質を作っているというのはよく知られた話しだ。医薬品を探すためにジャングルの中を一生懸命探索する非薬品会社の研究者の話は、テレビでたまに見ることがある。薬は量を間違えれば毒であり、農薬とほとんど同じ効果を持っている。要は量の問題である。
 野菜にしても、ストレスが高くなければそれほど防御システムを作動させない。従って、成長に必要な養分がよい比率である土地であれば、得に問題にならない量しか「天然の農薬」を作らないだろう。畑を健全にしておく必要がある理由はこんなところにあるのかも知れない。