無添加石けん

 松永和紀さん著「メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学 (光文社新書)」からの引用。

 先日テレビで、環境と体によいといういわゆる”エコ商品”の商談会があった、というニュースを報じていました。紹介されたいくつかの商品の中に、「体にいい無添加石けん」がありました。はて、無添加石けんとは何でしょう。
 別の日。新聞を読んでいたら、石けん会社が竹炭を入れた石けんを作った、というニュースが載っていました。「化学物質無添加」だといいます。これも、体にも環境にもよいとの触れ込み。この化学物質とはいったい何でしょうか。記事には何の説明もありません。
 また別の日。ある自治体から「地元の農林水産物を使ったお土産品を集めて作りました」とパンフレットを送ってきました。広げてみて呆然。ここにも「無添加石けん」が二点も載っています。「国産馬油を使用した石けん素地に竹炭粉末、竹酢液、納豆エキス、天然にがりを配合して製造」。なにが無添加なのでしょう。
 石けん業界は最近、無添加が大流行です。どうも、着色料や防腐剤なあど合成化学物質を添加するかどうかが問題らしく、添加しないことがイコール体によい、環境によい、というイメージにつながるようです。
 石けんは、動植物の油に含まれる脂肪酸に合成化学物質であるアルカリ塩(水酸化ナトリウムや水酸化カリウム)を入れて反応させてできる脂肪酸塩のことです。油も脂肪酸も脂肪酸塩も水酸化ナトリウムもすべて、炭素や水素、酸素などさまざまな元素が結合してできている化学物質。科学的には竹炭も化学物質であり、私たちの体も納豆エキスも天然にがりも元素の集合体、すなわち化学物質の塊です。したがって、化学物質無添加石けんというのは矛盾した表現です。
 それに、そもそも合成化学物質を入れないと石けんはできないのですから、合成化学物質の添加はダメ、納豆エキスや天然にがりならばいい、という根拠もあいまいです。天然にがりの主成分は塩化マグネシウムで、他のミネラルなども混じっていますが、化学合成によって純度をぎりぎりまで高めた塩化マグネシウムを天延にがりの代わりに添加したら、その石けんは途端に悪いものになるのでしょうか。
 そこまで考えると、これらの無添加石けんを製造販売する企業のいい加減さは分かるはずです。ところが、自治体がパンフレットで推奨した企業は、ホームページで「食べられる」とまでうたっているのです。石けんを食べてはいけません。

 ここまでいくと、笑うしかない。しかし、現実にこういうことが起きている。視聴者を異常に意識した商品開発が陥りやすい、一つの例でもある。そもそも、石けんは合成しなければできない。素材が天然であろうが、合成化学物質であろうが、混ぜ合わせないとできないのである。
 従って、無添加はありえないことになる。業者は、着色剤とか防腐剤という言葉を使用したくないがために、その言葉をはぶいて「無添加」といってしまっているのだ。
 これは、「化学物質」という造語ができ、「化学物質」が「人工合成化学物質」とイコールになってしまった時と、同じ過ちが起こりかねない。「無添加」だからよい。というイメージを定着させてはいけないと思う。
 そういえば、竹炭を入れたシャンプーが目立つようになってきた。あまり無駄なことはしない方が安い製品ができていいと思うのだが。