キレる子どもの原因は?

 松永和紀さん著「メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学 (光文社新書)」からの引用。

 コンビニ業界最大手のセブン-イレブンは2006年5月、調理パンで使用しているハムやソーセージ類から「リン酸塩」を追放しました。リン酸塩は決着力や保水性を高め食感が良くなる効果がありますが、リンを過剰に摂取するとカルシウムの吸収が妨げられると考えられています。セブン-イレブンはウェブサイトのイラストで、リン酸塩を摂取しすぎると「骨粗しょう症を誘引する」「キレる子どもが増加する」とハテナ記号を付けながらうたっているのです。
 確かに、カルシウム不足が小児のくる病や骨粗しょう症を招くことは学術的な研究で分かっています。しかし「キレる子どもが増加する」については、実証的な研究がありません。
 分かっていることは、慢性的なカルシウム不足が高血圧や動脈硬化、痴呆、糖尿病、肥満などさまざまな生活習慣病の発生に関わりがあるということ。カルシウムイオンは生物の体内で神経伝達や細胞膜機能の制御、酵素反応など極めて重要な役割を担っており、カルシウムの摂取が不足すれば、生物がかなりのダメージを受けるのは間違いありません。
 でも、ハムやソーセージに含まれるリンは魚や大豆に自然に含まれるリンに比べると極めて微量であり、ハムやソーセージが原因で慢性的なカルシウム不足に陥ることなどあり得ないのです。なのに「キレる子ども」などという定義もはっきりしない脅し文句で宣伝しています。
 私は企業姿勢を疑いますが、雑誌などでセブン-イレブンの添加物減らしの取り組みは好意的に取り上げられているのが実情です。
 私の見る限り、多くの企業は必要最小限の食品添加物を科学的、合理的に使い、きちんと表示して消費者の理解を得ようとしています。そうした企業が批判され、「キレる」などという扇情的な言葉で宣伝する企業が得をする。そんな社会を今、メディアとその報道に振り回される消費者が作り出そうとしています。

 リンは、カルシウムと同様、生体中の必須元素でもある。リン酸カルシウムは骨や歯をつくる。またDNAなどの遺伝物質を作るのに欠かせない元素でもある。ハムやソーセージに含まれているリンを無くしたところで、何の影響もないだろうが、リンを悪者扱いするのはどうかと思う。
 それにしても、「キレる子ども」という表現は、あらゆるところで登場してくる。環境ホルモン問題の時、ダイオキシン問題の時、遺伝子組み換え食品の時など。何かが危険と訴えるとき、原因が不明確な症状を使うと「これが原因だったのか」と人を引きつけてくれるので、この手の表現がよく使われるのだろう。そのうち、これらが複雑にからみ合い「子どもがキレるのだ」との主張になりかねない。
 ここでも述べられているが、「子どもがキレる」という表現は、原因がはっきりしていないし、そもそも病気なのかもわかっていない。親の子どもの育て方が原因である可能性もあるし、核家族化した社会構成に原因があるのかもしれない。
 逆に言うと、「子どもがキレる」ことの原因みたいな情報は最初から疑ってかかる方がいいのかもしれない。