水と植物細胞

 テイツ・ザイガー共著「テイツ/ザイガー植物生理学」(第3版)からの引用。

 水は、植物が生きていく上で、きわめて重要な働きをしている。1gの有機物を合成するのに約500gの水が根で吸収され植物体内を輸送された後、大気中に放出される。
 植物から失われる水のほとんどは、光合成に必要なCO_2を大気中からか吸収するとき葉から蒸発する。
 暖かく乾燥し晴れた日には、1枚の葉は1時間でもっている水を全部交換する。このような水損失を蒸散(transpiration)という。蒸散は、太陽光放射による入射熱を分散させる重要な手段である。
 気化潜熱とは、ある一定の温度で液相じゃら分子を分離し、気相へと移動させるために必要なエネルギー。25℃の水では、気体にするのに必要なエネルギーは44kJmol^{-1}で、これは液体の中では知られている最高の値である。
 この熱エネルギーのほとんどは、水分子間の水素結合を切るために使われる。水のこの高い気化潜熱のために、植物は太陽からの入射熱によって温度が増加しがちな葉の表面から水を蒸発させて、葉を冷やすことが可能となる。

 我々が、夏の日射しの強い日に木陰で涼めるのも、木が大量の水を葉から蒸発させてくれているからなのだ。植物としては、自分自身の温度が上がらないようにコントロールしているだけだが、我々にとってはそれが恵みとなる。そして、このとき同時に、木は二酸化炭素(炭酸ガス)を吸ってくれている。この蒸散は、木が地中から水分を吸い上げる機構にも影響しているらしい。