不定比化合物

 葛西栄輝・秋山知宏著「物質・エネルギー再生の科学と工学」(共立出版)からの引用。

 定比例の法則(J.L.Proust)によると一つの化合物を構成する元素の質量比は常に一定の整数である。例えば、二酸化炭素CO_{2}を考えると、構成元素である炭素と酸素の質量の比は常に1:2で一定となる。だが20世紀に入り、化学分析の制度が向上してくると、この低比組成からのずれ、すなわち、不定比性を示す化合物が多々存在することが明らかになってきた。特にセンサー、磁気テープなど機能性材料や半導体、高温超伝導材料、燃料電池材料などが登場し、にわかに脚光をあびている。身近な例としてはウスタイト(FeO)が挙げられる。この化合物の組成は常に一定でなくFe_{1 - y }OからFeOの間で変化することが知られ、熱力学的には1 - y = 0.947としてデータベースでは取り扱っている。そのためp型半導体として機能し、今まで知られていなかった特性が期待される。このような不定比化合物の研究では結晶格子欠陥の構造を調べ、それを応用することが重要で、まさに欠陥を逆手にとって制御する魅力的な材料設計法である。この方法では従来のような微量元素の添加は不要であるため、リサイクル性が向上する。不定比化合物は発明者の名前にちなんでベルトライト(Bertholide)化合物と言われることもある。