課題解決先進国

 小宮山宏著「東大のこと、教えます―総長自ら語る!教育、経営、日本の未来…「課題解決一問一答」」からの引用。

 こうした世界の人類全体の課題と、日本の直面している課題とは深い関係がある。一例を挙げれば、環境やエネルギー問題の解決において、世界でも最も先進的なモデルを実現しているのは日本なのである。この事実を知る日本人が、一体どれだけいるだろうか。日本は「課題先進国」なのだ。言うまでもなく、日本は天然資源に恵まれない狭い国土に、大きな人口と巨大な生産力を擁する国である。まもなく世界全体が同じような状況に陥り、同じような課題に直面する。日本こそ地球の近未来像なのだ。日本は自国の問題を解決することで世界の未来を切り拓くことができるとう、恵まれた希有な状況にある。そこで、「課題先進国」を脱皮して「課題解決先進国」になるべきと提案したい。それこそが日本の活路である。
 明治維新以降、日本は途上国として先進国の社会システムの導入に勤しんだ。イギリスから議会制度、フランスから警察精度、ドイツから大学制度、アメリカから高速道路システムと、欧米各国からさまざまな仕組みを短期間で導入した。しかし、文化的に欧米諸国より遅れていたわけではない。食文化、祭り、浮世絵をはじめとする芸術、日本建築は、当時でも世界一流のレベルであった。しかし、鎖国によって生産力で遅れを取っていた日本は、植民地化を免れるために、必至であらゆる先進的な仕組みを模倣し、導入した。そして、明治維新からちょうど100年後の1968年、日本は国内総生産(GDP)で世界第二位になった。そのとき、すでに先進国の仲間入りを果たしたのだ。
 ところが、その後の三十数年間が問題である。もはや模倣や導入が有効な時代は終わったのだ。それなのに、いまだにアメリカはこうだ、イギリスではこうだ、フランスではこうだとう、「では、では、では」の「ではの守」(出羽の守)が多すぎる。日本は「課題先進国」と自らを位置付け、世界に先駆けて自国の問題を解決することによって、二十一世紀の社会モデルを世界に示すべきなのだ。

 小宮山氏は東大の総長。非常にポジティブな発想をなされる方らしい。本書でも節々にこのポジティブさが見受けられる。この文は、前書きからの引用なのだが、日本に対して自立しよう。自らの考えで課題を乗り切ろうと訴えている。