環境変化と企業活動(2)

 郷原信郎著『「法令遵守」が日本を滅ぼす (新潮新書)
』(新潮文庫)からの引用。

 「競争環境」も、企業活動にとって重要な問題です。良いものをいかに安く供給するかという競争が健全に行われる公正な市場が維持されていれば、そこでの企業の活動は世の中のニーズに応えたものになります。これに関連する法令が独禁法です。
 しかし、「競争」をどのようにとらえるかというのは難しい問題です。単純に独禁法を遵守することが必ずしも社会の要請に応えることにならないことは、公共調達をめぐる談合の礼からも明らかです。しかも、競争原理を徹底することによって、例えば安全や労働者の利益などといった他の価値が損なわれることもあるのです。
 銀行融資などの間接金融中心から、証券市場での直接金融への転換は、「金融環境」を大きく変えました。間接金融には、融資先が固定化され、ベンチャー企業に資金が回りにくいというデメリットがある反面、資金使途について継続的なチェックが働くというメリットがあります。
 一方の直接金融は、多数の投資家の意志に基づく民主的資金調達なので、新規事業への投資が促進されるというメリットがありますが、逆に、資金使途に対するチェックが働きにくいというデメリットがあります。また、証券市場の公正さが確保されないと、投資家に不足の損害を生じることになります。
 ライブドア事件は、証券取引法が十分に機能していないために証券市場の公平さが確保されないという、日本の金融環境の劣悪さが表面化したものです。どのようにして、健全で公正な金融環境に近づけていくか。企業活動を行う側にとっても重大な問題です。
 「労働環境」にも大きな変化が生じています。かつて労働とは、自分の肉体以外に財産を持たない者にとって唯一の生活の糧でした。できるだけ短い労働時間で、できるだけ多くの賃金を得ることが、労働者の利益そのものでした。しかし、そのような19世紀的な労働観では、現状はとらえられなくなっています。
 企業の従業員の多くにとって、労働は自己実現の場でもあります。かつては、労働の内容は単純で、それによって生み出された生産物は資本家のものになるだけでしたが、現在は知的な要素が大きくなっており、労働から知的な創造が生まれます。労働条件の向上を図り、労働者の雇用を守るという労働法の目的を実現するためには、まず労働環境の質的変化を的確に把握することが必要です。
 その他にも、CO_2の排出規制といった「自然環境」への適応など、様々な要素の環境が存在し、また、それらは相互に密接に関連しています。企業は、こうした環境全体の変化を的確に把握し、適応していかなければならないのです。

 それぞれの環境の変化をこういう形で整理すると世の中が非常に変わってきているのがよくわかる。自然環境の変化に対する対応は、多分筆者の専門外ということで最後にさらっと書かれているだけだが、ここへの対応が企業を維持していくために一番重要になってくると思う。なぜなら、そこに環境ビジネスという大きな市場が誕生するからだ。