波動と粒子の二重性

 ケネス・W・フォード著「【送料無料】不思議な量子 [ ケネス・W.フォード ]」からの引用。

 第一次世界大戦の前、フランス貴族の御曹司だった大学生のルイ・ド・ブロイは、外交官を志して歴史を学んでいた。だが理論物理の魅力にとりつかれて歴史をポイと放り投げ、1913年には20歳で物理学科を卒業する。ニールス・ボーアが水素原子の量子論を発表した年だった。1929年のノーベル賞受賞講演でド・ブロイは、「物理のあらゆる領域に攻めこむ量子論という奇妙な発想に惹かれました」と語っている。
 兵役のあとド・ブロイはパリ大学の院生になって、1924年、革命的な理論を学位論文にまとめる。波は粒子で粒子は波という理論だった。その着想は物理学会を揺さぶり続け、波動と粒子の二重性は量子物理のコアとなる。
 ド・ブロイは着想を二つの事実から得たという。一つは当時、X線には波の性質も粒子の性質もありそうだとわかったこと。1923年にアーサアー・コンプトンがやった実験で、原子内の電子にぶつけたX線が粒子(光子)のようにふるまった。
 当時までの物理学者は、アインシュタインの持ち出した「光子」に実態があるとは思っていなかった(1924年時点でさえ、サティエンドラ・ボーズは光子を仮装のものとみていた)。
 X線は波(電磁波)で、波にしかない回折や干渉という性質をもつ。しかしコンプトンの実験は、光電効果(金属に光を当てると電子が飛び出す現象)とともに、電磁波が粒子でもあると語っていた。「もし波(X線)が粒子の性質をもつなら」とド・ブロイは考える。「粒子(たとえば電子)が波の性質をもっていてもおかしくないぞ」
 もうひとつ、古典物理だと、波は量子化(離散化)されているのに粒子はちがう、という点にもド・ブロイは注目した。ピアノやバイオリンの弦もパイプオルガンの気柱も、振動数はいくつかに決まっている。粒子にそんな性質はない。だが、原子内の電子も「物質波」で、それが弦のように振動するなら、エネルギー順位も量子化される・・・。
 こうしてド・ブロイは、電子も(ほかの粒子も)振動数・波長といった性質をもつのではないかと考えた。実際、三年後の1927年、アメリカ・ベル研究所のクリントン・デヴィッソンとレスター・ガーマーが、スコットランド・アバディーン大学のジョージ・トムソン(電子の発見者J・J・トムソンの息子)と独立に、結晶に当てた電子線が回折や干渉を起こすのを確かめ、電子の波動性を実証する。観測結果からは電子の波長もはじき出せた。