ガイガーカウンター

 ケネス・W・フォード著「【送料無料】不思議な量子 [ ケネス・W.フォード ]」からの引用。

 現象のランダムさをよく教えてくれるのが、ガイガーカウンター(ラザフォードの博士研究員だったハンス・ガイガーが1908年ごろに原型をつくり、あとで完成させた計測器)を使う放射能測定だろう。カウンターの心臓部は、薄い気体を入れた金属管と、管の中央部に張った一本の金属線。金属線と管の間には、スパークが飛ぶ手前ぎりぎりの値、数百ボルトの電圧がかけてある。線源から管に入ってきた高エネルギー粒子は、気体分子の一部をイオン化させる。その分子から電子が出て気体は電荷をもつようになるため、スパークが飛ぶ。管と金属線の間に流れる電流を増幅し、カチカチ音を出したり、スパークの飛んだ回数を記録させたりする。カウンターの回路は、1秒以下の時間内にスパークを消し、次の粒子を待ち受ける。
 線源にカウンターを向け、高エネルギー粒子が入るごとにカチカチ音が聞こえるよう、距離を調節する。耳をすませば、カチカチ音が時計のような規則的な間隔ではなく、ランダムに聞こえる。音が出る時間間隔は、お互いにいっさい関係ない。原子スケールでは途方もなく巨大な創造物(人間)が、ミクロ世界から来たランダムなメッセージを聞いているわけだ。
 音が聞こえるたび、放射性物質をつくっているおびただしい原子のうち、原子核のどれか1個がいきなり粒子を出す気になって、別の原子核に変身している。文字どおりの「核爆発」だといえよう。原子核内のひそやかな世界で、爆破の時刻は、確率の法則だけが決める。その隣には、はるか昔に爆発を終えた原子核も、まだまだ長生きしようとしている原子核もいる。
 確率がその姿を見せる道は、ほかにもある。数字になじんだ人ならおわかりの指数法則だ。ら座フォートが1899年に放射能と確率の関係を考えた手がかりもそれだった。放射能の強さと時間の関係をグラフにしたら、指数曲線ができた。指数曲線では、縦軸の値が半減する時間が一定になる。ラザフォードの実験でも、放射能が半分になるまでの時間が、最初の強さにいっさい関係なく決まっていた。その一定時間を半減期という。
 指数曲線は、確率に従う崩壊イベントから生まれる。その事実はラザフォードも知っていた。半減期は確率の中間点を表し、ある原子核半減期より速く崩壊する確率は50%で、半減期より遅く崩壊する確率も50%。この確率法則が、同種原子核のおびただしい集合体をつくる原子核ひとつひとつに働けば、試料全体の放射性崩壊を表す速度は、指数曲線に従ってなめらかに変わっていく。