重力

 ケネス・W・フォード著「【送料無料】不思議な量子 [ ケネス・W.フォード ]」からの引用。

 力の強さは、重力がいちばん小さい。ほんのかすかな重力にも、数十億個の数十億倍といった重力子が働くため、集団作用は観測できても、重力子一個の作用は観測できない。だから当面、重力子がつかまる見込みはない。
 それほどに弱い力が、どうやって私たちを地球に引きつけ、地球を公転させ、足を骨折させたりすつのか?理由は二つある。ひとつが、重力には引力しかないこと。ずっと強い電気力には、引力も斥力もある。地球は正電荷負電荷がたいへんよくバランスしているので、乾いた日に絨毯をこすりながら歩いて体に帯電させても、体を地面に引きつける電気力は感じない。かりに、地球の負電荷をすべて取り去り、正電荷だけを残したとしよう。絨毯を歩いたときほどのわずかな負電荷を体がもつなら、巨大な電気力で地面にたたきつけられ、たちまち絶命するだろう。逆に、地球の正電荷をすべて取り去り、負電荷だけを残したら、体はロケット顔負けの速さで宇宙に飛んでいくはず。宇宙のどこでも、電荷の精密なバランスが引力と斥力をほぼ完璧に相殺しているため、重力だけが浮き彫りになるのだ。
 私たちが重力をくっきりと感じる第2の理由は、地球の質量が巨大なこと。なにしろ地球は、6兆トンの10億倍もある。現実にはあらゆる物体が重力で引き合うけれど、身近なサイズの物体どうしの重力は弱すぎる。1m離れている人どうしが引き合う力は、体重の10億分の1にも足りない。つまり地球の重力は、相手が横向きに引く力の10億倍を超す。実験室にある物体どうしが横向きに引き合う力の測定はk、物理の大きな挑戦課題になっている。重力が弱すぎるため、ニュートンの万有引力定数は、ほかの物理定数に比べて精度がだいぶ悪い。
 重力はとにかく弱いから、粒子の世界で知られている作用は何もない。水素原子の陽子と電子が引き合う電気力は、重力のなんと1039も強い(1039とはどれくらい?1039の原子をつないだら、宇宙の端から端まで1000往復する)。とはいえ、陽子よりずっと小さい世界で、重力が何もしていないのかどうかはわかっていない。まだ私たちの知らないやりかたで、重力は量子論とからみ合う?そんな想像に胸をときめかす物理学者もいる。

 力を伝える粒子(フォースキャリア)というものがあり、その中で伝える力がいちばん弱いのが重力子だと言われている。その作用があまりに弱いため、重力子はまだ見つかっていない。日本でもこの重力子を見つける実験が高エネルギー加速器研究機構などで行われている。
 重力自体は、日々の生活の中で感じられるものだが、それは、数十億個の数十億倍の重力子が一度に働いているからであり、重力子集団の力を感じているに過ぎない。
 ところで、粒子とはキャリアを略したものなのだろうか。粒子よりもキャリアの方が意味が伝わりやすい気がする。粒子といってしまうと形ある物を創造してしまう。