自由電子の移動速度

新しい高校物理の教科書―現代人のための高校理科 (ブルーバックス)からの引用。

 金属中を電子が流れるとき、自由電子の流れの速さはどのくらいだろう。光のように速いのだろうか。それとも音の速さぐらいだろうか。(中略)
 自由電子の平均の移動速度は秒速0.1㎜にも満たず、アリが歩く速さよりも遅いということになる。
 だが、そんなに遅くては、発電所から電気が届くのはいつになるかわからないではないか。壁のスイッチを入れてから天井の明かりがつくまでに、何時間もかかってしまうはずだ。にもかかわらず、電気器具はスイッチを入れると瞬時に反応する。これはどういうことだろう。
 スイッチを入れた瞬間に明かりがつくのは、導線の中にもともと自由電子がぎっしりつまっていて、スイッチを入れ電圧を加えた瞬間に全体が一斉に動き出すからである。これは水道の蛇口を開くとすぐに水が出るのと似ている。浄水場から水が届くのを待つ必要はないのである。
 一方電圧が加わっていないときも、自由電子は止まっているわけではない。一つひとつの自由電子は熱運動でいろいろな方向に数十㎞/sの高速ででたらめに動いている。電圧を加えると、自由電子はこの熱運動をしながら、全体として電圧をかけた方向にわずかにすれる。このずれの速さが、前に計算した非常にゆっくりした平均の移動速度なのである。しかし金属にはおびただしい数の自由電子がつまっているので、全体の位置をほんの少しずらすだけで、顕著な電気現象が起きるのだ。

 正直言って、電気は苦手だ。いや、きらいだ。静電気のバチっという音が嫌いなのだ。電気に関しては、生理的な拒否反応がある。学生時代もなるべく電気に関する実験からは遠ざかりたいと思っていた。従って、当然の事ながら電気に対する知識は、高校生以下に近い。
 この自由電子の平均移動速度がこんなに遅いということも知らなかった。回路図などの説明で、電子が移動している絵がよく描かれている。あの図を見る限り、電子は電圧方向に勢いよく流れているように思えてしまう。電気現象とは、やはり波の性質なのだろう。
 ところで水道水の速度も同じぐらいの速さなのだろうか?