脳に左右差があるのは人間だけでない?

 デイヴィッド・ウォルマン著「「左利き」は天才?―利き手をめぐる脳と進化の謎
」からの引用。

 チンパンジーたちは今度はメロンをむしゃむしゃ食べている。サルたちを眺めながら、ホプキンズの発見がなぜこれほど常識を揺さぶるのかを考えてみた。一つには、チンパンジーの利き手の偏りがネズミよりヒトに近いとすると、進化生物学者の故スティーブン・ジェイ・グールドの説に反して進化はもっと斬進的だったと考えられる。つまり、特徴や行動は徐々に発達していくということだ。発話や右利きが突如現れて、その結果、人間だけが特別な島に飛ばされたわけでもなければ、聖書の底流にある精神などとも無縁だということだ。利き手だけでなく、もっと大きな人類の進化について考えるときにも、霊長類の研究は一つの重要なことを教えてくれる。人間という生物の脳に左右差が生まれたのがどのようなプロセスによるものだったとしても、それと同じプロセスが、程度の差はあれぼくたちの祖先たちにも働いていておかしくないのだと。
 脳の左右差が人間だけの特性ではないことをされに強調する事実がある。タコに効き目があるらしいことが近年に発見されたのだ。作家のエリック・シリアーノは2003年に《ディスカヴァー》誌の記事で、あまり顧みられていないこの海の生き物についてこう指摘している。「こうした左右差はわれわれの右利き・左利きに対応するものであり、タコの左右の脳半球に機能分化が見られることを示唆している。脳の機能分化は、情報処理の効率を高めると考えられているが、はじめはもっぱら人間だけの特徴、そのあとはもっぱら脊椎動物だけの特徴とみなされていた」

 ホプキンズの発見とは、実験場に飼っている91頭のチンパンジーの行動を15年間観察した結果、チンパンジーが集団全体として右利きに偏っていることを見つけたことを指している。人間以外の動物では、右利き・左利きの割合は1対1だとされてきた。人間だけが9対1の割合だとする。
 現在の常識?では、人間だけに脳の左右差があり、それがヒトの特徴だとされている。右よりシフト説では、「遺伝子によって脳にとてつもなく大きな変化が生じ、その結果として左脳に言語機能が現れ、同時に右利きの比率が高まった」としている。しかし、著者は「利き手のような行動特性を、パチンと指を鳴らすように自然が一瞬で「作った」と考えるのには無理がある気もする」と述べている。