界面の水

久保田昌治・西本右子共著「これでわかる水の基礎知識」からの引用。

 固体表面と水の相互作用は「ぬれ」の現象として興味が持たれてきた。親水性の表面では少なくとも3種の異なる状態の水が存在している。第1層は親水性の表面に水素結合した水であり、−100℃以下に冷却しても凍らない不凍水であり、束縛水ともよばれる。第2層は第1層の水分子と水素結合している水で、結合水、凍結可能な束縛水などとよばれる。結合水は凍結はするが、融点は0℃より低くなる。されにその外側は、表面の影響が及ばないバルク水・自由水とよばれて、0℃で融解する水である。第1層と第2層の厚さは数nm程度とされており、水は構造化されているので、あわせて構造水ともよばれる。構造水は水分子の運動も束縛されている。

 前野紀一著「氷の科学」には、次のような記述がある。

 フレッチャーの理論によれば、疑似液体層は−6℃付近の温度で出現する。層の厚さは、数十から数百オングストロームの程度であるが、温度が融点に近づくと急激に増大する。

 氷の表面は、内部と違って、温度が融点に近づくと秩序を持った構造の疑似液体層になるとする仮説で、いくつかの仮定が含まれているため、あくまでもひとつのモデルとして考えるべきだと著者はいっている。「氷の科学」ではさらに、融点近くの温度の氷では、焼結が起こるとも述べている。

 固体の表面も、液体と同じように余分のエネルギーを持っているから、水滴と同様に合体変形する。ただし、液体のように簡単に流動することができない。表面エネルギーによる固体の変形は、限られた条件つまり温度が融点に近いときだけ進行する。これが焼結と呼ばれる現象である。(中略)絶対温度でいえば融点のおよそ70%以上の温度でおこる。
 氷は「あつがり屋」である。たとえ−55℃という低温でも、氷の融点の80%もある。鉄なら1174℃に相当する温度である。したがって、通常の氷や雪の温度は、鉄が真っ赤に、いやそれを通り越して真っ白に焼かれている温度ということができ、氷や雪の中では、焼結現象が常に進行していることになる。

 確かに我々が普段触ることのできる氷や雪の温度は、せいぜい−10℃程度までだろう。絶対温度から融点までを100%とすると、90%以上の値の固体である氷や雪に触れていることになる。金属でいえば、相当熱せられた状態のものに触れていることになる。氷や雪が簡単にかたちを変えるポイントは理論は別として、この焼結現状なのかもしれない。