暗号解読

 ジェームス・D・ワトソン、アンドリュー・ベリー著「DNA (上)―二重らせんの発見からヒトゲノム計画まで (ブルーバックス)」からの抜粋。

 暗号がトリプレットになっていること、そしてDNAとタンパク質を結びつけているのはRNAであることはわかった。しかしまだ暗号を解読するという仕事が残されていた。
 NIH(米国立衛生研究所)のニーレンバーグは、メッセンジャーRNAが発見されたというニュースを聞いた後、無細胞系でタンパク質を合成する際、試験管で合成されたRNAも、天然のメッセンジャーRNAと同じように機能するだろうかと疑問をもった。
 ニーレンバーグとその共同研究者であるドイツ人ハインリヒ・マッティは、1961年5月12日、無細胞系にポリU(ポリウラシル)を加え、驚くべき結果を得た。リボゾームが作り出したのは、ただ一種類のアミノ酸フェニルアラニンが並ぶだけの単純なタンパク質だった。つまりポリUは、ポリフェニルアラニンの暗号だったのである。
 ニーレンバーグとマッティが解決したのは問題の六十四分の一でしかなかった。わかったのはUUUという暗号がフェニルアラニンを表していることだけで、残る六十三種類のトリプレット(これをコドンという)はまだ謎のままだったのだ。私たちはそれからの数年間、残るコドンがどのアミノ酸を表すのかを突き止めることに熱中した。配列の多くはウィスコンシン大学のゴビンド・コーラナによって解読された。1966年までには六十四種類のコドンがすべて解読され、コーラナとニーレンバーグは1968年にノーベル医学・生理学賞を受賞した。

 DNAとRNAの重要な違いは、DNAではチミンが使われるのに対し、RNAではウラシルが使われること。チミンのメチル基がついている部分が水素に置き換わったものがウラシル。