捕鯨問題と漁業

 「複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線」(草思社)の著者であるマーク・ブキャナンは、その著書の中で、日本が捕鯨再開の理由としてあげている「くじらこそが魚の個体数減少の原因だ」という主張に対して、そうではないと主張する。捕鯨が活発になったのは、近代漁業がはじまった19世紀になってからで、それまでくじらと他の魚は共存してきた。従って、くじらが魚の個体数を減少させているわけではないとの主張だ。それでは、原因は何かというと、人間だという。近代漁業が始まっていらい大量に魚を取り始めたのは人間であり、漁業こそが魚の個体数を減少させている。1980年代に、北大西洋の西海域でタラが急激に減少した時に行われた、専門家の調査結果がその裏付けとなっている。
 考えてみれば、人間が食糧としている魚以外は、すべて養殖されて作られている。農業で営む米、麦、野菜などは、すべて人間専用に農地で栽培されている。牛も豚も鳥もしかりである。漁業だけが、昔の狩猟の方法を未だにとっていることになる。
 現在の人口を維持するには、大量の食糧が必要で、人間分の食糧を人間が自給しない限り無理だろう。漁業についても同様で、養殖に走るべきなのだ。タラが激減した1980年代の養殖率は、10%代だったが、最近では約50%近くまで養殖が増えている。この比率を一層高めていくことが必要になってくる。
 くじらはというと、養殖するのは難しいと思うので、やはり、現状の調査捕鯨を維持していく方法になるだろう。