植物由来プラスチックの研究開発動向

 文部科学省の科学技術動向センターが発行している科学技術動向8月号に「植物由来プラスチックの研究開発動向−自動車ナノ複合ポリ乳酸の視点から」が掲載されている。
 この中で、今後の課題として、1.低コスト製造プロセスの開発と2.国際的な食料需給への影響があげられている。低コスト製造プロセスの開発のキーポイントは、現在の製造コストの60〜70%を占める乳酸発酵液から精製乳酸を精製する過程のコストダウンだと述べられている。このプロセスには、沈殿法、蒸留法、抽出法があるが、何れもコストがかかるとしている。コストダウンには、酵素や乳酸生成菌を応用する技術の開発が有用だとしている。バイオテクノロジーを応用した微生物や植物を活用した物質生産が不可欠としている。
 これは、アメリカがバイオエタノールを実用化するためのロードマップでもキーワードとしてあげている。
 国際的な食糧需給への影響では、世界の総糖質収量が約13億トンに対して、自動車で必要とされるプラスチックに必要な糖質量は、840万トンで、約0.7%としている。基本的には、食糧需給に影響を与えるほど多くを使用するわけではないとの主張が隠れているような気がする。
 しかし、この部分は、そんなに単純ではない。現在、石油の使用量の約8%がプラスチックなどの化学工業分野だ。そして、石油の使用目的の半分以上がエネルギーとしての使用であり、その中でもウェイトが高いのが自動車燃料としての使用だ。従って、プラスチックだけが、バイオマスの使用を考えているわけではない。すでに紹介したようにアメリカは本格的にバイオマスエタノール燃料として代替しようとしている。食糧と競合するのは、プラスチックだけではないのだ。
 ガソリン代替は最も重要なファクターで、おそらくどの国もアメリカと同様にバイオマス燃料に切り替えてくる可能性がある。国土が十分広い国では、新たなバイオマス燃料としての植物を生産することは可能だろうが、日本のように、国土の狭い国ではバイオマス燃料用植物を育成するシステム(植物工場など)の技術開発も不可欠になるだろう。
 どう考えても、食物と燃料用の植物を共有することは難しい気がする。ホンダが発表したように、食物用に栽培した植物の茎や葉から燃料を得るというのは理想ではあるが、日本の場合、国土に限りがあるので、燃料消費量を考慮すると量が少なすぎるのではないかと思えてくる。
 海外で生産するという方法もあるが、食糧問題や石油枯渇問題が切迫してくると、他国で生産という構図は成り立たなくなる可能性がある。
 食物も燃料も自給可能な社会を日本はこれから築いていかなければならないのではないかと思う。そして、これらを実現するためには、バイオテクノロジーや遺伝子組み換えテクノロジーのさらなる躍進が必要だと思う。