アメリカのセルロース性エタノール戦略

 アメリカのセルロースエタノール戦略マップが2006年7月に公表されている。これは、米国エネルギー省(DOE)が発表した「セルロースエタノールの利用に向けての障壁の解決」という報告書の中で述べられている。詳細は、ここで見られる。
 ブッシュ大統領は、今年の年頭演説で、エタノール製造技術について次のように述べている。

 最先端のエタノール製造技術の研究に対しても政府は資金を供給する。この技術は、トウモロコシだけでなく、木くずと茎やスイッチグラス(訳注:牧草の一種)も原料として利用するものである。

 つまり、食糧に使われているトウモロコシの実の部分だけでなく、茎なども原料とし、他の木くずや1年草などもバイオマスエネルギーとして利用していくということだ。これを踏まえて、米国エネルギー省がマップを描いた。
 それによると、今後5年間で、エタノール製造の効率化など、現在課題とされる内容に関して研究を行う。そして、次の5年で、製造技術を確立する。さらに、その次の5年でバイオマスエネルギーシステムの統合を行うことになっている。15年をかけて、石油依存型のエネルギー供給を国内で調達できる持続可能なバイオマスエネルギーへ転換していこうとしているのである。
 報告書では、セルロースバイオマスからエタノールを得ることの困難さが示されている。自然界ですぐに利用できるエネルギー源として「糖」をあげているが、「糖」は、「生物学的および化学的な分解を防ぐために、複雑な高分子複合体の中に固定されていて、セルロースおよびヘミセルロースエタノールへの変換を基盤とする新しいバイオ燃料産業を活性化するためには、植物の細胞壁の化学的構造および物理的構造について、どのように合成されているのか、またどのように分解できるのかを理解する必要がある」と述べている。
 そして、「高効率かつ経済的に収穫、分解、エタノールへの変換を行う持続可能な方法を開発するために、既存の原料に関する理解を深める。研究の中心となるのは、セルロースバイオマスの酵素分解である。」とし、化学的アプローチと生物学アプローチの両面からトライしていくことが述べられている。
 次に、技術開発段階として10年以内に、「持続可能性、収穫量、および組成の強化された次世代のエネルギー作物の開発とともに、新しい生物学体系を介したバイオマスの同時糖化・糖の共発酵プロセスの開発を行う」としている。収穫の安定化とバイオマスの同時糖化・糖の今日発行プロセスの開発を目指す。収穫の安定かには、遺伝子組み換え技術が活用されるものと思われる。そして、これらの開発により、スピーディで効率化されたエタノールの供給が実現されるとしている。
 そして、統合段階では、「並行的に開発された2 つの成果(エネルギー作物と、特定の農業生態系向けのバイオリファイナリー)がここで統合される。この高度に統合されたシステムでは、新しい酵素や改良された酵素を用いてバイオマスを糖化し、複数の安定した発酵プロセスを組み合わせて植物や微生物に適用することにより、燃料エタノール生産全工程の加速化および簡素化を実現する」としている。
 この報告書は、アメリカは本気でバイオマスエネルギーへの転換を実施していくことを示唆している。国土の広いアメリカならではの政策だが、いつできるかわからない燃料電池を基軸に考えている日本のエネルギー戦略とくらべ、実に現実的なアプローチに思える。