ピュタゴラス派

 ロビン・アリアンロッド著「世界を数式で想像できれば―アインシュタインが憧れた人々」からの引用。
 この本自体は、数理物理学者ジェームズ・クラーク・マクスウェルを描いた伝記的な本なのだが、節々に数学や科学の歴史がちりばめられている。サイモン・シンは、あまりニュートンが好きではないらしく、「ビッグバン宇宙論」の中でニュートンの記述をあまりしていない。この本では、1章をニュートンにさいており、ニュートンが発見した法則が如何に偉大なことかが記述されている。ニュートンの章は長いので、ここでは割愛して、ピュタゴラスの記述を引用する。ピュタゴラスに関しては、逆にサイモン・シンの方が長く記述している。数学を語る場合、ピュタゴラスから話を進める場合が多いようだ。

 空間と図形の研究を、幾何学という体系的な言語にまとめた最初の人々は、ギリシャ人だった。ギリシャ数学者の最古の人たちとしては、2500年ほど前に栄えた、ピュタゴラス派の人々(ピュタゴラスの弟子と、その流れを汲む後の人々)などがいる。ピュタゴラス派は、神秘主義の教団を作った。これは、菜食主義、精神の浄化、財産と知識の共有といった教義をもつ、厳格で秘密主義的なエリート集団だった。ギリシャの法律は、女性が公の集まりに参加することを禁じていたが、ピュタゴラス派はこの問題に関して開放的で、テアノやペリクティオネといった女性も、数学の活動に加わっていた(テアノは数学を楽しんだにちがいない。「愛はとらわれない魂のためのもの」と書いている。ペリクティオネは、「私たちは世界についてよくよく考えるために生まれている」と書いた)。
 ピュタゴラス派は、音楽の数理物理学を開拓したことでも有名で、張った弦と、それをはじいたときに出る音との関係を発見した。ニュートンは、ピュタゴラス派が逆二乗法則を発見したことも指摘する。これは弦の張力と長さとの関係を述べるもので、それぞれが、弦をはじいたときに出る音のオクターブに影響する(ニュートンは、ピュタゴラス派がその音楽に関する発見を用いて、この同じ関係が惑星にもあてはめられるという宇宙論を発見したことも記している。惑星のいろいろな大きさや軌道の距離が、音階上の音と対応する長さと張力との比と同じ比になっていると想像された。それは音楽に関する実践的、客観的な実験とは違う、空想による考え方だった。ピュタゴラス派は、実際の惑星に関する大きさはまったく知らなかったからだ、実験や数学に基づいた、現実的な宇宙の測定が行われるようになるまでには、されに300年ほどかかる。しかし、ニュートンは、論理的というよりも神秘的な気分から、自分の宇宙論に出てくる逆二乗法則が、ピュタゴラス派に知られていたと思った。重力は、実は、古代の宇宙的調和という美しい思想が表れたものにすぎないのではないかと)。
 幾何学の研究では、ピュタゴラス派は、直角三角形に関するピュタゴラスの定理、「直角三角形の斜辺の正方形は、直角をはさむ辺の正方形の和に等しい」で知られる−他の文化圏、とくに古代バビロニアの数学者もすでに発見していた結論だ(ギリシャ数学は、もともと、エジプトやバビロニアの数学に基づいている)。しかし、ピュタゴラス派の後継者は、この定理の論理的証明を継承した。実は、ギリシャ人、とくにプラトンは、幾何学に関する独自の体系的研究で、私たちが今日用いている数学的証明の方法を発達させた−幾何学の図ではなく言語に基づいているので、ギリシャ人の方法が主に幾何学に由来することを考えると、意外な方法だ。