遅延時間がある理由

 V.S.ラマチャンドラン著「脳のなかの幽霊、ふたたび 見えてきた心のしくみ」からの引用。

 探検家のデイヴィット・リヴィングストンがライオンに襲われたときの有名な話があります。彼は自分の腕が食いちぎられたの見ても、痛みはおろか恐怖さえまったく感じなかったといいます。いっさいがひとごとのように、あたかも遠くから出来事を眺めているように感じられたのです。戦場の兵士たちや、レイプにあった女性たちにもこれと同じことが起こる場合があります。そのようなよくよくの緊急時には、前頭葉の前部帯状回が極度に活性化します。これが扁桃体その他の情動中枢を抑制あるいは一時停止するために、不安や恐怖など、無力化を起こしうる情動が一時的に抑制されます。しかし同時に、前部帯状回の活動性は、極度の覚醒と警戒を生み出した、必要になるかもしれない防御反応に備えます。
 緊急時には、情報を切り捨て(「鋼鉄の神経」)、同時に警戒を高める、ジェイムズ・ボンドばりの組み合わせが有用であり、私たちを危害から守ってくれるのです。奇矯なふるまいは、しなくてすめばそれにこしたことはありません。

 ハッキリとはいっていないが、脳の事象よりも自由意志が1秒も遅れている理由は、この防御システムのためと考えているのではないかと思う。引用の前のくだりで、コタール症候群、ミニコタールの話をしている。コタール症候群とは、あらゆる感覚が情動中枢と切り離されているもので、どんな物も、人も、感触も、音も、何ひとつとして、情動に影響をあたえない症状。この患者は、自分は死んでいると言い始めるらしい。このコタール症候群は稀なシンドロームだが、これに似た一種の「ミニコタール」を示す現実感喪失・離人症として知られる症状がある。急性の不安、パニック発作抑うつ、その他の乖離状態において見られ、世界が急に非現実的に見え、夢のように思えて、患者は自分をゾンビのように感じるらしい。
 これらの症状は、情動の世界での「死んだふり」の実例であり、進化的適応のメカニズムであると言っている。そして、引用の文章につながっていく。