誕生1時間後の宇宙

 サイモン・シン著「ビッグバン宇宙論 (下)」からの引用。

 一般に、物質には4つの状態がある。第1の、もっとも温度の低いときの状態は個体で、固体中の原子や分子はお互いにしっかりと結合している。第2の、少し温度の高いときの状態は液体で、液体中の原子や分子の結びつきはゆるやかなので物質は流れることができる。水は液体の一例である。第3の、さらに温度の高い状態は気体で、気体中の原子や分子はほどんど結びつきがなく、勝手に動き回ることができる。水蒸気は気体の一例である。そして、第四の状態がプラズマで、温度がきわめて高いため、原子核は電子をつなぎ止めておくことができず、原子核と電子がばらばらに混じり合っている。プラズマという状態があることを知らない人は多いが、たいていの人は毎日プラズマを作り出している。蛍光灯にスイッチを入れると、内部のガスはプラズマになるのだ。
 したがって、生まれてから一時間後の宇宙はまだ、原子核と自由電子からなるプラズマのスープだった。符号が相異なる電荷はお互いに引き合うから、負の電荷をもつ電子は、正の電荷をもつ原子核にくっつこうとするが、電子はあまりにも大きな速度で飛び回っているため、原子核の周囲をめぐる軌道に落ち着くことはできなかった。落ち着くどころか原子核と電子はお互いにぶつかって跳ね返るということを繰り返し、プラズマ状態が続いていった。
 宇宙にはもうひとつ、圧倒的な光の海という要素があった。しかし意外なことに、宇宙の誕生に立ち会うのは、それほど明るい経験ではない。なぜなら何も見えなかったからだ。光は、電子などの荷電粒子とすぐに相互作用するため、プラズマの粒子にぶつかって跳ね返され、結果として宇宙は不透明だった。この多重散乱のせいで、プラズマは霧のように振る舞っただろう。霧の中を車で走っていると、前方の車は見えない。なぜなら前方の車からやってくる光は、細かな水の粒子によって何度も散乱され、光がこちらに届くまでに幾度となく向きを変えられてしまうからだ。

 確かに、プラズマという状態が存在することを意識している人は少ないと思う。プラズマテレビは知っているが、なぜプラズマテレビというのかを知っている人は少ないだろう。ちょっと想像していただければわかると思うが、プラズマという状態は、非常に高温の世界である。そして、高温のプラズマ状態にするには、非常にたくさんのエネルギーが必要になる。プラズマテレビの消費電力が高いのは、このせいだろう。液晶、つまり液体の状態で制御する液晶テレビとプラズマ状態で制御するプラズマテレビでは、消費電力に違いがあってもおかしくないのだろう。
 しかし、蛍光灯を考えると電球よりも消費電力が少ない。これは、あつかう物質が違うからで、軽い元素では、プラズマ状態を作るのにエネルギーをそんなに必要としないが、中くらいの重さの元素を使うとたくさんのエネルギーを必要とするのだろう。
 ちなみに、蛍光灯に入っているのは水銀。水銀は通常液体だが、ヒーターで加熱することで蒸発させている。蛍光灯の仕組みについては、こちらを参考にして下さい。