太陽で水素がヘリウムに核融合される経路

 サイモン・シン著「ビッグバン宇宙論」からの引用。

 ベーテは、当時太陽の内部で実現していると考えられていた温度と圧力の条件下では、水素をヘリウムにするには二つの核反応経路があることを突き止めた。ひとつの経路は、普通の水素(1個の陽子)が、より重くて希にしか存在しない水素同位体である重水素(1個の陽子と1個の中性子)と反応する。この反応で、比較的安定したヘリウム同位体(2個の陽子と1個の中性子)ができる。次に、この軽いヘリウム同位体が2個融合して、普通の安定したヘリウム原子核になり、副産物として2個の水素原子核を放出する。
 水素をヘリウムにする方法としてベーテが提案したもうひとつの経路では、水素原子核を捉えるために炭素原子核を利用する。もしも太陽に少量の炭素が含まれているとすると、それぞれの炭素原子核は、一度に1個ずつ水素を捉えて飲み込むことができ、そうすることで自分自身がしだいに重い原子核になる。最終的に、変換された原子核は不安定になり、ヘリウム原子核を吐き出して、もとの安定した炭素原子核に戻り、このプロセスがまた最初から繰り返される。
(中略)
 1940年代までには、ベーテが提案した核反応はどちらも太陽の内部で実際に起こっており、それによってエネルギーが生み出されていることが明らかになった。天体物理学者たちは、太陽がい1秒間に5億8千400万トンの水素を5億8千万トンのヘリウムに転換し、失われた質量が太陽を輝かせるエネルギーになる過程を正しくイメージできるようになったのだ。これほど速いペースで水素を消費しているにもかかわらず、太陽は今もおよそ2\times10^{27} トンの水素を含んでおり、これからまだ何十億年もエネルギーを生み続けるだろう。

 これに先立ち、ドイツのハウターマンスが、水素がヘリウムに核融合されるためには、水素同士がどのくらい近づかなければならないかを計算で求めている。その臨界距離は、10^{15} メートル、1兆分の1ミリメートルだった。太陽の内部深くの圧力と温度は、水素原子核10^{15} メートルという臨界距離内に近づけられるぐらい大きく、そのために核融合が起こり、高温を維持できるだけのエネルギーを放出して、さらなる核融合を促すだろうと考えたのだ。しかしハウターマンスは、そのメカニズムまでは、説明できなかった。なぜなら、この時点でまだ中性子は発見されていなかったからだ。そして、中性子が発見された後、ベーテがそのメカニズムを解明した。
 ベーテが太陽が輝くメカニズムを解明した後、天体物理学者たちは、「宇宙はいかにして現在の状態にまで進化したのか?」という命題に取り組むことになる。